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2019年 J2リーグ 第23節 京都サンガ VS 大宮アルディージャ ~442絶対殺すマンの誕生~

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◆リベンジマッチ

京都はいつものように4141。警告累積で欠場となった安藤がCBに復帰しています。対する大宮は今季初めての442。それはDFラインの怪我人によるもので、決してポジティブな理由ではありません。いつもと違う形でどんな振る舞いが出来るのか。結果を先に出してしまうと、大宮が不慣れな442を選択せざるを得なかったことは、この試合に最も影響を与えた要素となりました。

 

 

◆狙い通りの一点目

この試合の大宮に限ったことではありませんが、京都は442で守る相手を崩すべく、戦術を練り上げて来ていました。幸いな事に、そのほとんどが一点目のシーンに集約されています。

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上図は1点目のゴールまでの流れの中から、ポイントとなったプレーを抜き出したものです。それぞれのプレーから、戦術とその狙いを見ていきましょう。

 

シーン①:一列降りる

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庄司はバックパスをした後にCBの間に移動してます。中盤からDFラインに移動しているので「一列降りる」などと表現されます。一列降りる事で、相手2トップとCBとの関係を2対2から3対2に変化させて数的優位を生み出し、フリーの選手を作ることを狙います。

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単純な仕組みの様ですが守備側からみると厄介な動きです。この落ちる動きについていくと、おそらくボランチになるのですが、中央にスペースを空けてしまいます。かといってそのまま放って置くと、数的優位を作られフリーの選手に前進を許してしまいます。

DFラインから攻撃を開始する有効な手段として、中盤が一列降りる動きは世界中で使われています。

 

シーン②:ローテーション

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一旦キーパーに戻されたボールは、作り出されたフリーの安藤に渡されます。その時間に前方の選手達は興味深いポジションチェンジを行っています。

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右サイドの石櫃、仙頭、福岡はちょうど三角形を回転させるようにポジションを変えています。ぐるっと回るので「ローテーション」と勝手に呼んでいます。ローテーションの狙いは相手の判断を迷わせる事です。例えばSBはそれまでマークする対象であったはずの仙頭が居なくなり、代わりに石櫃が現れます。どちらに付くのかを改めて判断しなくてはなりません。この様にローテーションは守備側の判断を迷わせる効果があります。

 

先程の落ちる動きをしていた庄司とローテーションの動きを合わせると、京都は4-1-4-1から3-4-3にシステムに変化させていたのが分かります。

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シーン③:さらにローテーション

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安藤が前にボールを持ち出すと、さらにローテーションを仕掛けます。福岡が大外に開く事で相手ボランチを誘い出し、内にいる仙頭へのパスコースを開けることに成功します。中盤のスペースでボールを受けたため、大宮のボランチはカバーに入らなければなりません。

 

シーン④:相手を寄せてからのサイドチェンジ

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仙頭をサポートした福岡がボールを持ち、前へ運ぶ素振りを見せることで、大宮のMFラインは片側に寄せられてしまいました。相手を片側に寄せれば、教科書通りのサイドチェンジです。庄司のスピードのあるロングパスで逆サイドに展開して、黒木は完全にフリーで前進します。

 

シーン⑤:役割を誤らない小屋松

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サイドを変えられた大宮の守備ブロックは急いで逆サイドに移動します。ただし、全体を大きく移動させながら、味方と敵の位置を見てポジションを決めるのはかなり難易度が高いプレーです。この場面でも選手同士の距離が広がり、スペースが出来ていました。

そのスペースを使ったのが小屋松です。黒木をサポートするために斜め後ろに移動して、次の一手の起点となります。本来のポジションから言うと金久保の役割なのですが、ポジションが前後していたために小屋松が代わりになっています。

元のポジションはウイングである小屋松が中盤の仕事をしていることから、ポジションと役割とが紐付いておらず、その場で必要な役割を判断して動いている事が想像されます。(小屋松だけかも知れませんが・・)

 

シーン⑥:スペースを狙ったひし形を形成

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スペースで前を向いた小屋松を起点として、金久保、一美がサポートに入り、ゴールへと向かうひし形を作りました。左右だけでなく縦にもパスコースを作るひし形は、ボールを前進させる強力な形です。これが最後の決め手となりました。

 シーン⑦:たどり着いたゴール

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 上手く反転してゴールに向かった一美。金久保のアイデア。仙頭のゴール前での落ち着き。チーム戦術と個人の技術が噛み合った素晴らしいゴールです。

キーパーから始まった攻撃がゴールにたどり着くまで、戦術的な意図のあるプレーが幾つも積み重ねられていました。

 

 

 ◆変幻自在の京都

 得点の奪ってからの京都は試合を優位に進めます。343への変形を機械的にやるのでは無く、得意としている4141のままでボールを持つこともありました。システムを切り替えることで相手に守備の的を絞らせません。

前半35分あたりからは、ダメ押しと言わんばかりにさらなるポジションチェンジを仕掛けます。仙頭と福岡、小屋松と金久保、このペアが前後に場所を入れ替えていました。これによって、時間が経過して相手が対応に慣れて来たところで、相対する選手を入れ替えることでリセットをかけ、主導権を握り続けます。

 

 大宮は、やはり不慣れな442というのもあり、対応を誤っている様な印象がありました。特に下図のような場面です。

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庄司が一列降り、空いたスペースにさらに金久保が降りてきます。大宮の中盤からは誰も金久保についていく動きを見せず、実質4対2の様になっていました。

京都が安全にボールを持てるだけでなく、前からプレスに行って高い位置でボールを奪う!が基本線の大宮にとって、2トップの追い込みが効かない状況は想定外でしょう。ボールを奪えないだけでなく、無理な追い込みを掛けてカウンターの起点にされてしまいました。それが京都の3点目です。

 

◆終盤での失速

2失点目。ロスタイムに入りそうな時間で、体力的にも精神的にも疲労しているということも踏まえて、あえての指摘になります。

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安藤の縦パスをカットされて、カウンターを受けました。円で示した場所に誰もいない事が原因であるように思います。その場所に位置取りできていれば、より安全にボールを回すことも出来たでしょう。もしそれでも縦パスを選択し、カットされたとしてもすぐに守備に向かえる場所でもあります。ボールに対して良い構造が作れていることは、良い守備にもつながるという好例だと思います。

 

京都は15分から70分まで試合を支配し続けました。が、ここから反撃を受けてしまいます。途中交代した選手が怪我で離脱してしまう不運はあってにせよ、終盤では疲労、特にメンタルの疲労による判断ミスが原因なのでは無いかと思います。

全体のペースを落とすのか、後方を固めてしまうのか。あまり選手層の厚くない京都にとっては、解決には難しい問題です。

 

 

◆雑感

京都の戦術的なポジショニングによる仕掛けに驚いた試合。サポーター目線ながら京都相手に442で対抗するのはかなり厳しいのではないか。死に物狂いでプレスを掛けない限り、酷い目に合わされるでしょう。

怪我人だらけの大宮。前半に選手を変えても形を変えられなかったのが苦境を物語る。このまま4バックをせざるを得ないと、勝ち点を伸ばすのに苦労しそう。

大宮の不遇があったにせよ、京都の70分までのパフォーマンスは圧巻であった。70分までは。