あと一歩だったのか。それとも、もう限界だったのか。
2019シーズンを京都サンガは8位で終えました。一時期は首位に立つも、そこからずるずると順位を落としていった原因はなんだったのか。この一年で感じたことを総括として残しておきます。
シーズン序盤、中盤にもまとめ記事の続きという位置づけです。
首位に立つということ
シーズン中盤、飛び抜けて完成度の高いボール保持の巧みさを武器に、京都サンガは首位に立つことになります。
京都サポの大半は、開幕前にあまり期待していなかったこともあって、想像以上の成績に驚き、戸惑いもあるくらいでした。また、他サポからも昇格に必ず絡んでくるだろうと、そう捉えられるほどに内容の良い試合をしていました。
けれども、勝負事は一筋縄ではいきません。Eスポーツのレジェンドであるウメハラ氏がこの様な話をしていました。「トップになる事で一番きついのは、研究されること。 」
首位に立った京都サンガも、同じ様に他クラブから厳しい対応策を取られる様になりました。夏を過ぎたあたりから、その傾向が徐々に見えてきます。
京都のビルドアップは設計がしっかりしている故に、ボールが循環するコースもわかりやすいという弱点がありました。守備側としては、わかってしまえば狙いをつけやすい攻撃です。京都側としては、さらにその裏をつければよかったのですが、なかなか上手く行きませんでした。正直すぎるというか、駆け引きができる所まで到達していなかったと言えるかもしれません。
特にインサイドハーフ、相手のMFとDFとの間、ライン間と言われる場所でのプレーに苦心していました。中央を突破できるというポーズが取れなければ、サイドも上手く使えず、攻撃は停滞してしまいます。
そして守備面では、京都のDFラインに狙いを付けられます。
安藤、本多のコンビは、キミッヒをセンターバックに置くくらいクレイジーな配置だと思ってる(笑)
— とめ@はんなりサッカー (@tome_beta) 2019年5月20日
ログをさかのぼってみると、自分でもこの様なツイートをしていました。
安藤と本多のCBコンビは、ビルドアップ能力を重視した配置です。SBで起用されていた福岡、石櫃、黒木もどちらかと言えば攻撃面に特長を持っている選手で、守備には不安が残ります。
DFラインがこの様な構成であるならば、直接叩いてしまうのが得策です。京都のDFライン裏への飛び出しが多様されるようになりました。特に安藤が狙われていたように思います。
岡山戦、この時は3バックだったのですが、DFに対してFWを直接ぶつけられる格好になり、防戦一方の試合になりました。
そもそも京都のゲームモデルでは、ボールを持つ時間を長くすることで、引いて守備をする場面をなるべく避けるようとしています。それを意図したDFラインです。
前述のビルドアップに対策をされたために、徐々にボールを持つ時間、というよりは奪われ方が悪くなり、自陣に押し込められる回数が増え、DFラインの弱みを隠せなくなっていました。
引いて守った時の守備の強度を高める。対処を全くしていなかったというそうでもありません。闘莉王を中央に置いた3バックにした時期もありました。確かに、闘莉王を起用することで高さと強さが確保されます。
ただし、これには別の問題が起きてしまいます。闘莉王はスピードに難があるために、DFラインを思い切って上げることができません。これによって、相手を押し込む→守備側のクリア→敵陣でボール回収→再び攻撃、という好循環を起こしづらくなってしまいます。結局はこぼれ球を拾われて、カウンターを仕掛けられる回数が増えてしまいました。
闘莉王ではなく、別の選手を置くのはだめだったのか?という疑問は当然浮かびます。ただ3バックの中央はボールの配給役でもあります。最後尾からのパス能力が落ちることで、チーム全体のコンセプトが揺らいでしまうのを嫌ったのでは無いかと思います。
CBの人選はずっと続く悩みの種でした。問題を解決することが出来ずに成績を落とし、シーズンを終えました。
逆説的になりますが、攻撃的なサッカーをするためには、優れたCBが必要となります。
2019シーズンの京都の様に、相手を完全に押し込んでしまう事で試合を有利に進めようとすると、どうしても少ない人数で相手に対処する場面が出てきます。強くて、上手くて、(できれば)速いCBを揃える必要があります。
その観点でいくと、及第点を取れたのは本多くらいでしょうか。もうひとり確保できれば・・と考えてしまいますね。最終的な勝ち点は大きく変わっていたでしょう。
終盤に響く選手層の薄さ
リーグ戦が進むにつれて、見えてくるものがありました。選手層の薄さです。スタメンと控えメンバーとの間には、如実に差があることがわかってきます。
スタメンで出ていた選手がコンディションに問題があり、試合に出れなかった時、はっきり試合内容が悪くなっていました。また、一度劣勢になると、選手交代で流れを変えられません。おそらく逆転して勝利した試合は、なかったように思います。
京都の脆弱性を痛感した試合がありました。アウェー長崎戦です。
京都としてはやりたいことが出来て、戦術的に上手く運べていた試合でした。それでもクロスから失点し、ゴール前を固める相手の最後の局面を崩せず、負けた試合です。
チームとしては優勢なのに結果は・・・と非常にくやしい負け方で、 同時に京都の限界を見せられたようで、言いにくいのですが、自分の中で覚悟が決まった試合でもありました。
選手層の薄さ。それは確実にチームの人件費から来ています。
(引用元:https://note.com/kyoemoon/n/n04927d5d2b67 2019シーズン京都サンガF.C.まとめ)
J2クラブの人件費の図を引用します。これはおそらく2018年の数字で、こうしてみると京都はリーグでも真ん中あたりの予算規模のクラブであることが分かります。
2019年でも、大きく変化はなかったでしょう。むしろ減額されていたのでは無いだろうかと、そう確信させる様な報道もありました。
京都FWエスクデロ 去就不透明も練習試合出場「僕が腐ったら示しつかない」 クラブは財政的に厳しく…― スポニチ Sponichi Annex サッカー
エスクデロとの契約が出来ないかも。そこまで逼迫した状況だったのです。結局は契約することになるのですが、予算としてはギリギリだったことが伺えます。
これほどの混乱が生じた原因は、強化部長が不在だったことでしょう。京都は指揮を取るべき人物が居ないまま、選手編成を行っていました。書いていて目眩がします。安藤、宮吉という京都に縁のある選手が加入するのですが、他に声を掛けられる選手がいなかった、というのが正直な所じゃないでしょうか。
それほどに歪な状態だったにも関わらす、完成度の高いサッカーが(一時でも)実現できたのは、監督を始め、指導者の力だったのでしょう。
クラブ規模についてもう少し。
京都の人件費が急増する事は考えづらく、これからもJ2の中では中央あたりに属するクラブであることは変わらないでしょう。赤字を出すほど人件費を積んだとしても、上位の仲間入りするにすぎません。
J2はただ給料の高い選手を集めれば昇格できる、というリーグでは無くなっています。本気で昇格を目指しているのであれば、チームに必要な選手を、できれば少ない金額で獲得する、移籍市場を上手く立ち回る事が不可欠です。
新スタジアムという大きな転機を迎えるのですが、京都サンガFCが何を目指しているのか、そのために何をするべきなのか、改めて考え直すタイミングなのでは無いのかと思います。
1年という猶予の時間
特に狙いがあった訳でもない選手編成にも関わらず、京都は素晴らしいサッカーをしていました。ホームの大宮戦。相手がベストメンバーではなかったのを差し引いても、目指しているサッカーを一番表現できていた試合だったと思います。
特に一点目に至るまでの流れが素晴らしかった。選手達の意図がぴたりとハマり、論理的に相手の守備を崩していく。あまりにも美しい展開であったために、得点に至るまでの流れだけで、記事を一つ書いた程でした。
チームは好調だったのですが、実のところ、少し引っかかる所が、2つ程ありました。
1つ目は、チームの組み立てがあまりにも早かったこと。これはほんとに個人の感覚になるんですが、京都はそれまでとは全く違う新しいサッカーを組み立てようとしていました。そこで半年くらい掛けてやることを3ヶ月で完成させてしまったような。猛烈なスピードでチーム作りを進めていると感じました。
もう一つは、チームから規律違反の選手が出ていたこと。規律違反が出る=内部で上手く行っていない、と考えるのが自然です。ところが、チームがいい調子であるにも関わらず出てきてしまった。そこに違和感を覚えたのです。
シーズン終了、クラブから発表されたのは中田一三監督の契約満了です。そこでようやく、納得がいきました。
ここからは推測です。
中田監督は自分に与えられている時間があまり無いことがわかっていたのでしょう。自分を監督に推した人物はもういない。新たに引き受けたチームを1年で結果をだす、昇格に準ずる成績を残さなければならない。
そうなると、猛烈な勢いでチームを組み立てなければならなかった。スタメンとサブの選手との間に差が出来てしまうのも止むなし。とにかく行けるところまで。勝ち点を重ねていく。
通常たどっていくプロセスを一足飛びにしていた、チーム内部でしかわからない、ストレスが生じたのでは無いのかなと。そう考えています。
強化部長が残っていれば、中田監督の契約は続いたのかもしれない。しかし、今の京都サンガの混乱を呼び込んだのも前・強化部長であったことは、紛れもない事実です。
本当にサッカーというのは皮肉なものです。
監督、中田一三
一言で表すなら、異端でしょうか。稀有と言っても良いかもしれません。欧州的な思想を持っている人でした。
コーチに権限をもたせて、自身は一段上からチームを見守る。分業の進んでいる欧州サッカー界でよく見られる手法です。
サンガタウンに見学しにいった事があるのですが、その時も練習を仕切っているのはコーチ達で、ピッチの端から全体を見守っている中田監督の姿がありました。
組織づくりだけでなく、目指しているサッカーにも欧州の思想が反映されていました。記事から引用します。
「日本の選手はポジショニングの概念がほぼない。戦術的に意図を持ってどこに立つのか、各ポジションの役割は何なのかが、理解されていないのが基本だった。このポジションはこの仕事をやってほしい、ということを一番に要求した」
京都のサッカーを見て感じてきた、もしかしたら、が確信になったインタビュー記事でした。中田監督はポジショナルプレーを元にチームを構築する指揮官です。
ポジショナルプレーとは、ボールを中心に、選手それぞれがどの様にポジションを取ればチームの利益になるかを追求する思想です。
マリノス、ヴィッセルなどがポジショナルプレーを志向する代表的なクラブで、徐々に結果も出るようになってきました。ただし、海外の監督や選手を中心にしなければ、実現が難しいのではと感じていました。
そんな自分の偏見をくつがえしたのが、ずっと見てきた京都であったのには本当に驚きました。指揮官、選手ともに、日本サッカーの文脈を持っている人達です。それでも、欧州的な思想を元にしたチーム作りとサッカーを表現できるんだと、これは非常に大きな事実であると思うんですね。まだまだ日本サッカーも捨てたもんじゃない、新しい考えを持った人達が、きっと出てくるはずだろうと。
こうなると、やはり昇格まで届かなかったのは残念です。京都がやってきたサッカーをもっと披露出来る場所にまでたどり着きたかったと。
中田監督の惜しかったところを挙げてみると、基本となった433システム以外の、特に3バックが上手くいかなった事や、選手のマネジメントにミスがあったのでは、などいくつかの失敗はあったのですが、克服できる類のものでは無いかと、これからも監督としてのキャリアを重ねて、表舞台に立つ事を願うばかりです。
そういえば、4人のコーチと、それをまとめる監督という体制だったので、これは一体誰のサッカーであったのか?という話もありました。
それに対する回答は、中田監督のTwitterでのやり取りが答え合わせの様になっていました。
特定のストライカーに頼らない
— 中田一三 #Ichizo.Nakata☝️🧐✨ (@NAKATA_ICHIZO) 2019年12月8日
緻密に計画した戦術
いつ、誰が、どこから、どの様に…関わりを作るのかが分からないコンパクトな距離感でプレーを継続
ボールと身体コントロールをより細やかに素早く行う
巧みさを極めるスタイル
スタートを各ゾーンから区切って、ボールを保持しながら相手ゴールを目指す。相手ゴールへ向かう関わりとボールが相手に渡りそうな瞬間にボール回収に切り替わるを反復すると、その両立を考えたポジショニングが意識される様になる。回収したら次はどうする?誰がどこにアクションを起こす?などなど
— 中田一三 #Ichizo.Nakata☝️🧐✨ (@NAKATA_ICHIZO) 2019年12月8日
①以前からやっていました
— 中田一三 #Ichizo.Nakata☝️🧐✨ (@NAKATA_ICHIZO) 2019年12月8日
②自分がプレーしたかった
観ていても愉しいと感じるサッカーを探し求めて観ていたから
やはり、2019年の京都サンガは中田監督のチームだったのでしょう。
最後に、振り返って見ると、京都サンガを見てきて、ピッチ内外でこれだけエキサイティングなシーズンを送れた事は今までになかったんじゃ無いだろうか。
週末を楽しみにできる、そんなサポーターの日常を取り戻してくれた事に改めてお礼を言いたいです。
ありがとう!いちぞー監督!!