勉強も兼ねてのまとめです。
発生した事象
前半終了間際、京都GKの上福元がPAから飛び出し、磐田FWの杉本を倒しファール。主審はイエローカードを提示したが、そこにVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入。OFR(オンフィールドレビュー)を行った結果、主審は判定をレッドカードへと変更した。
一連の流れを掘り下げる
細かく事象を見ていきましょう。
1、上福元選手が杉本選手に体をぶつけに行ってファール
これはオブストラクション(インピード)のファールです。体を使って相手の進路妨害をしたという判定になります。競技規則では以下のように書かれています。
・競技者が、相手競技者とボールの間に自らを置くことは、ボールがプレーできる範囲にあり、相手競技者を手や体で押さえていない限り、反則ではない。
逆にいうと、ボールをプレーできない範囲から相手を手や体で押さえると反則になりますよ、という事ですね。
実際の場面を見てみると、上福元はボールに触れない位置から杉本にぶつかっていっているので、オブストラクションが成立します。この判定については特に異論は無いと思います。
(追記 背中からぶつかってるとして、単に不用意なチャージとしての反則かもしれません)
2,主審の判断はイエローカード
ここで主審はこのファールはSPAであると判断してイエローカードを提示しました。SPAとはStopping a Promising Attackの略で、「大きなチャンスとなる攻撃の妨害」と日本語訳されています。よくある例としては、カウンターが始まりそうな時にファールで止めた場面でしょうね。「ピンチになりそうなのをファールで防ぎましたねー」「イエロー覚悟で止めましたねー」とか解説されるやつです。主審の判断にもよりますが、このままプレーが進むとおそらくシュートまでは持っていける、という場合にSPAとされる傾向があります。
実際のファールの場面に戻ります。これはあくまでも自分の想像ですが、飛び出したGKをかわしている、京都の守備が戻ってきそうではある、ゴールに対して距離と角度がある。このあたりの要素を考慮して、主審はSPAであると判定したのではないでしょうか。
上福元の動きを見てみると、ボールに間に合わなかったから、しょうがなくファールで止めておこう、という風に見えます。プレーしていた本人も、警告止まりだろうと考えていた節があります。
3,VARの介入
イエローカードを提示した主審の判定に対してVARが介入しました。VARが介入する条件については、JFAは以下の様に説明しています。
判定についてVARが介入するのは①「得点かどうか」②「PKかどうか」③「退場かどうか」④「警告・退場の人間違い」の4つにおいて、「はっきりとした明白な間違い」もしくは「見逃された重大な事象」があった場合となります。
今回の例では、③「退場かどうか」になります。主審はSPAとして判定を行いましたが、VARは決定的な得点機会の阻止(DOGSO)と判断したため、介入を行った事になります。
それではなぜVARは決定的な得点機会の阻止と判断したのか。
判定の基準としては以下となっています。
・反則とゴールとの距離
・全体的なプレーの方向
・ボールをキープできる、またはコントロールできる可能性
・守備側競技者の位置と数
この4つの条件が、全て満たされた場合は決定的得点機会の阻止として、レッドカードが掲示されます。
それでは今回の場面を4条件と照らし合わせてみましょう。
・ゴールとの距離
PAの外、ピッチの端なので、近い・・・とは言えなさそう。
・全体的なプレーの方向
ゴール方向かは微妙だが前進しようとはしている。この時相手をかわそうとして外側に動いたとしても、影響なしと考えるそうです。
・ボールをキープ
これは当てはまります。
・守備側競技者の位置と数
ファールが起きた時点では、シュートコースを防ぐ場所にはいないので、成立していると言えそうです。
4条件すべてを満たしているかというと、特に1つ目のゴールとの距離が微妙な気がします。自分はスタジアムのちょうど目の前でファールの場面を見ていたのですが、ゴールとの距離、プレーの方向は満たしていないと判断したので、警告はしょうがないにしても退場はないだろうと思っていました。
4,条件の緩和
それでは警告の判定を「はっきりとした明白な間違い」としてVARは介入を行ったのか。後で調べて分かったのですが、ゴールキーパーがゴールから大きく離れた場合には、4つの条件は大幅に緩和されるそうです。
これにはゴールキーパーとフィールドプレイヤーの守備能力の差が関わってきます。手を使えるかどうかですね。仮にゴール前で1対1の場面があったとして、この時、守備側がGKでなくフィールドプレイヤーであったなら、ほぼシュートを防ぐ事はできないでしょう。
つまりゴールキーパーを置き去りにした場合は、枠に飛ばしさえすればゴールはほぼ決まるので、距離が遠かったり角度がついてたりしても、決定的得点機会の条件として成立するという考え方をするようです。
実際に起きた場面を振り返ると、ボールをクリアーしようと上福元がゴールを飛び出した、けれども杉本がボールをコントロールした、この時点でもう決定的得点機会として成立していた、ということなのでしょう。そこでファールをしたので、警告は間違いで退場が正しい判定であるとしてVARは介入を行いました。
5、OFRにより判定を変更
続いて主審によるOFRが行われます。OFRは主観による判断が必要なときに行われます。ボールがラインの外に出たか出てないか、の様な0か1の判断ができるときにはOFRは行われません。
この時のニュアンスとしては、「VARとしては決定的得点機会の阻止だから、退場と判定したんだけれども、主審も映像を見て判断してくれませんか?」こんな感じです。ポイントとしては、VARがこう言ってるから即採用という訳ではないことですね。必ず主審の判断による判定が行われます。今回の場合、ゴール方向に向かっているか、守備側が戻ってこれているか、あたりを映像で確認していたんじゃないかと思います。
そうしてレビューの結果、警告から退場に変更されました。VARの見解と、OFRを行った主審の見解が一致したと言えます。ただOFRを行った上でも、いやこれはSPAだから警告、という結論に主審がなったとしても、それはそれで済んでいそうな気もします。
一手前のノットオフサイド判定についてあれこれ
前述した案件の前に、裏に飛び出した杉本がオフサイドではなかったのか?というややこしいことが起こっていました。VARとのやりとりする時間が長かったのはこっちの事象のチェックもしていたからだと思います。
得点が決まったときなど、オフサイドの判定にもVARが介入することがあります。映像に対するオフサイドラインの引き方としてJリーグでは2Dラインを使用しています。選手の足の位置に線が引かれます。
ただし競技規則には次のような記述があります。
競技者は、次の場合、オフサイドポジションにいることになる。
・頭、胴体もしくは足の一部でも、相手競技者のハーフ内にある(ハーフウェーラインを除く)。そして、
・競技者の頭、胴体もしくは足の一部でも、ボールおよび後方から2人目の相手競技者より相手競技者のゴールラインに近い位置にある。
走り始めた瞬間など、選手が前傾姿勢をとった場合、足元に線を引く2Dラインでは競技規則にそった正確な判定ができないという問題があるんですね。今回の杉本のように、足元を基準にするとオフサイドでは無いけれど、正確に体の一番前方に出ている場面を基準にするとオフサイドかもしれない、という判定が起こりうる。これは審判員の方々には何の非もない所で、判定システムの技術的な課題であるわけです。
(海外のリーグでは3Dによるラインを採用しているところもあるそうです。)
VARによるオフサイドの判定に存在する「誤審の余地」 | SPURS JAPAN - Part 2
個人の意見を述べさせてもらえば、そこまでシビアに判定しなくてもなあというスタンスです。今のJリーグの環境で、映像で見てもオフサイドかどうか判断つけられない、というような場面がおこれば、そこはもうわからんもんはわからんとして、副審の判断を尊重すれば良いかなと思います。そうした方が余計なストレスもかからなそうです。
もうひとつ、今回の様にオフサイドがあった後のプレーで、DOGSOによる退場が起きた場合。オフサイドが認められていたら、その後に起きたプレーでのカードはキャンセルされるそうです。ただ、蹴った殴ったの乱暴な行為によるカードの場合はキャンセルされないんだそうです。ややこしいですね。
参考
【VARを知ろう】ここは知っておきたい!VARの基礎知識|JFA|公益財団法人日本サッカー協会
【Q&A】進路妨害(しんろぼうがい)Impede(インピード)は、どういう反則(はんそく)ですか? - FC Gradation Kashiwara