Take it easy

サッカーブログです。

2024シーズン 京都サンガ 夏の中間報告

一時期の低迷を脱したものの、まだまだ残留に向けて安心できる状況ではありませんが、夏の中断期間を経た段階での、今自分が感じていることをメモ代わりに残しておきます。

ハイプレスの機能不全

 京都のサッカースタイルの象徴とも言うべきハイプレス。とはいえ、思ったよりも上手くいかないな、奪ってからカウンターにつなげるのも難しいな、という状況は続いていました。そして、今シーズンに至っては、なんとか頑張っているもののハイプレスの効果が薄れてきている、という状況に陥っていると感じました。

 原大智という前線の大駒があまり熱心に守備をするタイプではないのが、ハイプレスが有効で無くなった理由の一つですが、それ以上にJリーグ全体でビルドアップのスキルが向上しているからのように思います。

 今現在のJリーグの一つのトレンドとして、主体的にボール保持を行うチームが、ビルドアップに積極的にGKを組み込む流れが加速しています。それによって、ボール保持側の人数に余裕ができ、ハイプレスを仕掛けてくるチームに対しても、安定してボールを前進することを可能にしています。

ビルドアップVSハイプレスの例を図にしてみます。攻撃側が442。守備側が4123です。守備側は京都サンガをイメージしています。

 大まかにこの様な図式となります。攻撃側はGK+4バック+2ボランチの7人。一方、守備側は3トップ+2IHの5人。攻撃側はGKを組み込むことで、2人の数的有利を得られます。もう一つポイントとしては、守備側がこれ以上ハイプレスに人数を割くのが難しいことでしょう。守備側のDFラインはオフサイドルールがあるため、ハーフラインより前方にポジションを取るのは無謀です。また攻撃側の選手に対し数的優位を保つ必要があるので、これ以上ハイプレスに人数を割くのも難しい。攻撃側の選手と後方のリスクを抱えるため、7対5の差の解消を難しくしています。

とはいえ、GKやCBに対してプレッシャーを掛ければミスを誘発できるのでは?という発想が仕掛ける側から出てくるのはもっともです。けれども、そういったプレスをものともしないGKがどんどん増えて来ています。足元の上手いGKというと、単純にパスが上手い、遠い距離でも狙った所に蹴れるという事を表していましたが、それに加えてプレスを受けても安定したボールを蹴れる、というスキルを指すようになりました。守備側のハイプレスが主流となった環境がGKにその様なスキルを要求し、それに応えた形になります。

 ビルドアップVSハイプレスの争いは、ここ5年程、欧州サッカーの大きなテーマになっていました。その流れがJリーグにもやって来ているんですね。Jリーグの発展という意味では歓迎すべきことでしょう。最新のサッカーをキャッチアップできているチームがJリーグにもあることにちょっと感動しています。

 話を戻しますと、7対5の形を作るチームが増えたことで京都のハイプレスが無効化されるシーンが増加しました。また、そもそもボール保持を志向していないチームの場合、ハイプレスの構えを見せた段階でボールを蹴っ飛ばしてしまいます。要するに、京都のハイプレスに対してまともに向き合ってくれるチームがほとんど居なくなってしまったんですね。こういった環境故に京都はスタイルの見直しを測る必要がありそうです。リスクを取ってさらに人数をかけたハイプレスにするのか、無効化されたハイプレスに見切りを付けるのか、いずれにせよこれからのJリーグの流れに乗っていくために決断は必要です。漫然と続けていくだけでは、周囲から取り残されてしまうでしょう。

夏のレボリューション

 6月1日にGM(ゼネラルマネージャー)に就任した大熊清氏の手によって、大胆な変革とも言える移籍が行われました。

IN 

  • ラファエル・エリアス(レンタル)
  • ルーカス・オリヴェイラ(レンタル)
  • 米本(レンタル)
  • ムリロ・コスタ

OUT 

  • 山崎
  • 一美
  • 飯田(レンタル)
  • ハーン
  • 谷内田(レンタル)

 注目されるのはラファエル・エリアスとルーカス・オリヴェイラの両名。夏移籍した選手の中でも市場価値は群を抜いています。おそらくJリーグの中でも、市場価値トップクラスになるでそゆ。どうしてこんな選手が残留争いをしている京都へ?給料は出せてるの?今まで獲得してた選手はなんだったの?と疑問はいくつか出てきますが、実際に連れてきている訳で、これについては大熊氏の力が大きいのでしょう。

 それにしても、チーム状況からいって補強は必須だったのですが、まさかセンターライン一式+ウイングの計5人も獲得するとは思いませんでした。もちろんこの5人が活躍することは願っていますが、これだけ選手が変わってしまうと、今までやってたのは何だったのか?とモヤモヤするのは確かですが、外部からやってきた大前氏の京都に対する評価が、この夏の移籍なのでしょう。色々と思う所はありますが、残留争いからなんとしても抜け出さなくてはいけませんし、とりあえずの急場をしのいでから、これからの事をしっかり考えましょう。これだけの選手を集められたので、残留自体は固いのではないかと思います。

悩めるエース、原大智

 左右両足で強力なシュートを放ち、前線でのボールキープもこなし、左右に流れてからのクロスにキレがある。原大智が京都サンガのエースである事に異論のある人はほとんどいないでしょう。その一方で、悩ましい所があるんですよね・・・

 「原大智を中央に置くべきか否か?」サポーターの間で頻繁に話題になっています。実際の試合でも、3トップの真ん中と左ウイングの半々というところでしょうか。彼の試合中の振る舞いを見ると、ボールを触る回数を増やしたいタイプであることがわかります。ポジションに捕らわれず、ボランチ近くまで降りてくる事もあります。自分がフリーでボールを受けられる場所を探して動き回っているのが伺えます。以前に在籍したウタカも同じタイプでした。そう考えると3トップの中央が向いているとは言いづらいのです。ボールを触りたい選手が相手の守備がきつい所に配置されてもストレスを貯めるでしょうし、ボールを受けに動き回ると、今度はゴール前から人がいなくなって困ってしまう訳です。豊川が右ウイングに入った時は上手く調製していた様に、周囲の選手との連動が必要になってきます。(中央に移動した選手がエリア内で仕事ができること込みで)

次に左ウイングに入った場合。こうなると当然ボールを受ける回数は増えて、カットインからのシュートとクロス、後は意外とハーフスペースからゴール前に入り込むフリーランも上手かったりします。攻撃面で良いことが多いのですが、問題は守備ですね。ご存知のとおり、京都のウイングというのは極めて高い運動量が求められるポジションです。原大智もがんばって守備に帰ってくる場面もありますが、左サイドの守備が弱くなることは否めません。相手もそれをわかって来ているようで、原大智の周辺を攻撃の起点とすることも増えてきました。そしてペアとなる左サイドバックの人選ですね。守備力がより必要となるので、及第点を取れるのは三竿くらいになるでしょうか。攻撃力重視の佐藤響や冬一を置くと収支があわなくなってしまいます。原大智を左に置いた時のバランスを考えると、現在は怪我で離脱していますが、麻田を置くのが良いのかもしれませんね。

 もう一つ、これはチーム自体の問題なのですが、ボールを上手く前進させられないというのがあります。原大智にクリーンにボールを渡せない。京都のビルドアップはお世辞にも上手いとは言えず、色々試して結局前線に放り込むという流れになってしまいます。そのターゲットになるのが原大智。原大智がターゲットマンであり、チャンスメイカーであり、ストライカーでもある。これまでは山崎やパトリック、今年では一美がターゲットマンとして頑張ってくれて原大智のターゲットマンとしての役割を軽減できていたのですが、一美も移籍し、CFとして当てはまりそうなエリアスもヘディングが強くなさそう。依然として原大智の負担は大きく、思ったよりも得点数が増えない原因かと思います。

 まさに帯に短し襷に長し。原大智が強力な選手なだけに、強みを活かしつつ弱みを消せるような環境が作れるかどうかは京都の課題ですね。中か左か、未だに定まっていないのも課題を上手く処理できていないからでしょう。今後、4123システムを変えることはないでしょうし、原大智の力を最大限発揮させるためには、どうすれば良いのか?この課題は引き続き重要なテーマとなりそうです。

 余談ですが、京都サンガの左ウイングについて。木下、木村勇大、一美と起用されたストライカーと呼ばれる選手達が、揃って他クラブへの移籍を選んだことは大きな問題でしょう。

チームを立て直した立役者

 7月から8月に掛けて、試合内容も良くなり、勝ちを積み重ねられるようになりました。まだ降格圏ではあるのですが、一時期の底と言える状態を脱し、残留への道筋が見え始めています。勝ち点自体は16節VS名古屋から取れるようになったのですが、はっきりチームが変わったのは21節湘南戦からでしょう。自分はそう思います。

 湘南戦からアンカーに福岡が入りました。福岡は今シーズンは、ほとんど出番を与えられず、アンカーとしての起用もこれまで無かったはずです。その彼がチームの基礎を大きく組み替える役割を果たしました。福岡がチームにもたらしたものを一言でいうと、「アンカーというポジションを忠実に守ること」になるでしょう。

 京都の3センターはとにかく動きプレスをかけ続ける事が求められていました。それはアンカーポジションでも例外では無かった様に思います。プレスのために前に出たり、カバーの為にサイドまで出ていったりすることが頻繁にありました。攻撃でもポジションを崩す事が多く、中盤に穴が空きDFラインが晒される場面も多発していました。

 福岡はまず自分のスペースを守るということを意識していたと思います。アンカーとは「船をその場に留めるイカリ」から来ている言葉なのですが、その基本に忠実だったと言えます。試合中には、中盤のポジションニングの基準を示す様子も伺え、DFリーダーである鈴木義宜と共に、全体のコントロールに一役勝っていことが想像されます。アンカーに福岡が入ることで右IHの川﨑のプレーも見違えるように良くなったのも印象的でした。ユース時代から一緒にプレーして来た相方はやはり頼れる先輩であるのでしょう。福岡と中盤を組んだ平戸、米本との相性が良かったのも好調の要因ですね。この3人は利他的な精神を持ち合わせサッカー観も近そうです。彼らのスキルに頼っている所は大きいですが、ビルドアップも徐々に機能し始めています。この3人のプレーは「3センターとはこういうものだ」と訴えかけるかのようでした。

 この時期スタメンで活躍した選手としては、マルコと一美がいます。右ウイングに入ったマルコは、FWというよりは前目に位置するMFといった感じ。サイドアタックの起点となっています。彼のスキルと周囲の選手とつながろうとする姿勢は、この様な役目が適しているのかもしれません。一美は前線の起点となり、原大智の負担を軽減する役目を果たしていました。守備にも献身的だっただけに、移籍を選んだことはちょっと残念です。その決断は尊重しますけどね。

 ここまで挙げた選手たち、新加入の米本は別として平戸、福岡、マルコ、一美。彼らに共通しているのは、主力とされていた選手が怪我をしたことで出番が回ってきた選手達ということです。この事実を選手層が厚くなったと捉えるのは、自分にとっては難しいです。それは、彼らが見せているサッカーが「普通のサッカー」だったからです。ハイラインでもハイプレスでも無く、中盤3人はお互いのポジションを意識して連動を見せ、ウイングの選手が幅を取って起点となり、IHとSBと共にサイドを攻略する。文字にすると普通のことが新鮮に映りました。「独自性を出すよりも、普通のサッカーをすればそこそこ出来るのでは?」と良く言われていましたが、実際にピッチで表現されると、逆に戸惑ってしまいますね。

 今までやってきたことは何だったのか。どこまで狙いを持ってやっているのか。一体何が正解なのか。このチームはどこを目指しているのか。チーム全体に大きな疑問を投げかける、そんな7月となりました。

チームに流れる2つの流派

前述した内容と重なるところがありますが、福岡が見せた振る舞いには大変驚かされたました。それは、必ずしもりいい意味では無かったです。

(一美選手自身もクロスやいい仕掛けがたくさんあったのかなと思うんですけど、個人の手応えは。)
普段は真ん中のポジションでやってるんですが、左でも真ん中に行って同じことをやってもいいような自由な攻撃スタイルですし、守備のところも含めてチームのためにハードワークすることがすごい大事だと思うので、そこは続けていきたいなと思います。

明治安田J1 第22節 2024年7月7日 アビスパ福岡戦 マッチレポート | 京都サンガF.C.|オフィシャルサイト

--今日は左に入ったが。
左に入ってクロスを上げるタイミングで上げて、起点になれるかなと思った。監督から「京都のサイドを変えて、(前々節・)磐田戦みたいな感じで、何か違うリズムを」という形でやっていたんですけど、なかなか代わってからリズムを作ることができなかった。両方でやるのは難しいところもありますけど、何か今後そういうことがあればもっとリズムを作って、何かを変えていきたいなと思います

【公式】新潟vs京都の選手コメント(明治安田J1リーグ:2024年8月12日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

 ”プレーの判断は大部分を選手に任せている”、きっとそうなんだろうなと思っていたことが、徐々に選手の口から語られる様になりました。攻撃に関して言うと、そういう事もあるだろうなとある程度納得できるところもあるのですが、前述の福岡の振る舞いを見ていると、守備に関してもそのやり方を選手に任せっきりにしているのではないか?と疑問が湧いてきます。試合を振り返ると、平戸や米本、マルコもそうですかね。一人で無理矢理にボールにプレスをかける場面はほとんど見られません。ここでも、これまでにスタメンだった選手達との違いがありました。

 選手たちの中に大きく2つのグループができている様に感じます。

・自分が主体となりアクションを起こす事で、周囲の選手にフォローしてもらう

・グループの一員として、周囲とのバランスを考えてアクションを起こす

この2つのグループです。細かいプレーに関する違い以上に、サッカーそのものの捉え方に大きな差があると感じます。ここまで思想が異なる選手達を集めて自由を与えたとしたら、一体感のあるチームを作り上げるのは至難の業でしょう。試合を重ねても一貫性が見せず、常にリセットを繰り返しているように見えるのも、こういった事情があるからではないかと、自分は考えるようになりました。それにしても、よくチームとして体を成しているなと感心するところはあります。これだけ思想が違うと、選手間での衝突が起きてもおかしくない。それでもチーム内の雰囲気は良いとニュースにでてきますが、監督の驚異的なマネジメント力のおかげと言う他ないでしょう。

 これまでのスタメンを見ていると、チーム内では前者の選手を評価しています。マルコ、平戸、福岡、一美といった選手達は、主力が戻ってきたときにはまたスタメンを外れる可能性は高いです(移籍選手も居ますし・・)。そうなった場合に、上手くとれていたバランスが一気に失われてしまうのではないか?という心配もしています。また、監督がそういった選手間での思想の違いを修正しようとする姿勢が見られないことも不安材料です。選手同士のシナジー、相互作用にも無頓着なところも気になります。

本音と建前と理想と矛盾

 シュトゥットガルト戦では、親善試合とはいえ、前半は3-0、後半は0-5と非常に極端な結果になりました。後半は、いわゆる控え選手たちが出場したのですが、連動しない単騎でのプレスを続け次々と外されていく、個人での打開に終始し効果的なプレーを生み出せない。非常に見ていて辛いものがありました。彼らはチームが求めているものをただ忠実に実行しようとしているだけなのですが・・・

過去の試合で、自分が非常に印象に残ったコメントがあります。

松田天馬

(この勝ち点1を勝ち点3にするためには?)
僕たちは他のチームにできないことができるチームですし、それは90分できると思うので、もっと自信を持って、引き分けでしたけど最後は勝ちにいけるような、最後は僕たちが押し込んでいるような展開に持っていけるのが理想かなと思います。

明治安田J1 第17節 2024年6月1日 セレッソ大阪戦 マッチレポート | 京都サンガF.C.|オフィシャルサイト

正直なところ、このコメントには非常にガックリ来たんですね。京都のハイライン・ハイプレスは、勝利のためというより、自身のアイデンティティを確立する目的の方が大きいようです。その証明と言うかはわかりませんが、今現在スタメンに名を連ねている選手を見ると、控えメンバーがやっていたような無謀なプレスをほとんどやっていないんですね。もちろん、守備だけでスタメンとして選ばれている訳では無いのですが、激しくプレッシングを掛けることが、基準ではあるけれど絶対では無いことを示しています。良いように考えると、その隠れた基準に気づくことがスタメンになる条件なのかもしれませんが・・・

 このチームはいくつか矛盾を抱えているように見えます。ジレンマと言った方が正しいかも知れませんね。川﨑を主将に据えるなど、監督は若手を積極的に使い育てるというイメージがありますが、ほとんどのプレーを選手に任せているため、ある程度の答えを持つ経験豊富な選手がいないとチームとして成り立たないという事実がそこにはあります。監督が主義としているトランジション重視のハイテンポなサッカーも、基準ではあるけれども絶対ではないようです。ボールを保持したいのか、そうでないのか、それもはっきりとしない状況です。

 京都サンガの監督に就任してもう4年目。時間が経つに連れて、チョウ・キジェという人がどんどん解らなくなって来ました。多くの矛盾を抱えていることは非常に人間味があるとも言えます。人がやることですし、そもそもサッカーチームという集団はそういうものなのかも知れません。