
百年構想リーグ
8試合を終えて、3勝3分2敗。百年構想リーグはPK戦決着がルールとして定められているが、あえて90分での結果として見たほうが、現状を把握するには向いているだろう。この成績をどう見るかは色々と意見が分かれるところだろうが、個人的な意見を述べさせていただくと、よくやっている、いや、よく凌いでいると表現するのが良いのではないだろうか。というものの前シーズン3位で終えた京都サンガではあるが、とてつもない災難に見舞われている。そんな中、おおよそ五分の成績を残せているのはなかなか凄いところだ。というわけで、ここまでの悪戦苦闘の道のりを振り返って見よう。
飛車角金落ちのスタート
何が京都に起きていたのか、簡単にまとめておこう。要するに宮本の移籍、原大智の移籍、福岡慎平の負傷なのだが、この3人はチーム戦術上、換えの全く効かない選手たちであった。3人の役割を挙げていくと、以下のようになる。
- 宮本優太。CBから縦パスやドリブルで運ぶことによるビルドアップの起点。カウンターを受けた時の右サイドバック裏の広大なスペースをカバー。
- 原大智。主な前進手段であったターゲットマンへの放り込み。鋭いクロスや高いボール保持能力による前線での攻撃の起点。
- 福岡慎平。CBからのボール引き出しによるビルドアップ関与。全体のポジションを整えるための時間作り。危険なスペースの予防的なカバー。
一言でまとめてしまうと、ボールを前進させる手段がほとんど無くなってしまったことになる。え?そうは言っても、他の選手が全然出来ないことはなくない?という疑問は当然あるのだが、ここまで数年にわたり色々試した結果、こうした結論に至ったので仕方ない。京都のサッカーは、選手によるボトムアップによって成り立っている。
ついでにいうと、エリアスも怪我してしまったのだが、それも含めて、京都の百年構想リーグとは、先に挙げた問題をどうやって解決するか、悪戦苦闘する試合が続いている。
既存メンバーによる穴埋め
まず試したのは、それまで在籍していた選手による穴埋め。最初にやることとして、妥当な線だろう。右CBのポジションにはアピ。アンカーには齊藤未月。左ウイングには新加入の新井が起用された。

結果としては非常に微妙な出来であった。アピはビルドアップの起点としても守備時に対応においても、攻守にわたって物足りなかった。未月については、個人の特性によるところが大きかった。京都の選手によくある特徴として、「動きすぎる」というものがある。未月についてもそれは当てはまるようであった。4123のアンカーというポジションは、DFライン前のスペースを空けないことがまず求められる。その役割と「動きすぎる」という特徴は、非常に相性が悪い。また、神戸や清水といった相手は、ボールを奪うとロングボールを交えた直線的な攻撃を志向するため、「動きすぎる」という特徴と重なり、試合全体が非常に落ち着きのないものとなってしまった。スペースを埋めることとボールに向かう守備の判断、試合全体のペースを整えるといった役割が福岡慎平は抜群に上手かった。不在の影響が逆に強調される試合になってしまった。
もう一つ付け加えると、原大智の不在も大きく影響した。お互いにロングボールを使うスタイルであったが、神戸の大迫、清水のオ・セフンと京都には居なくなったターゲットマンの存在がそのままロングボールによる前進の成功率につながり、終始押し込まれる苦しい試合展開となってしまった。
1節、2節の結果より、これまで在籍した選手たちによる代替は効果がなく、考え方を変える必要を迫られる結果となった。
3バックと尹星俊
大きな転換に迫られた京都は、第3節からシステムの変更を行う。それまで慣れ親しんでいた4123から3421への変更である。

大きな変化となったのはシステム変更だけでなく尹星俊の抜擢だろう。今年ユースから昇格した18歳は、評判以上の活躍を見せる。タイプとしては福岡慎平と同じように全体のバランスを整える選手であった。違いがあるとすれば、福岡慎平はポジショニングの巧みさと時には味方を動かすことによって相手プレスを無効化していたが、尹星俊は個人のスキルによって相手のプレスを回避することだろう。相手がプレスを仕掛けるときの矢印の向きを感じ取る力が高く、相手の勢いを利用するように巧みなターンをすることで局面の打開を図るプレーを得意としているようだ。また、新人ながら物怖じなくプレー出来ていることも特筆すべきところだろう。精神面も技術の内である。ただ新人だけにまだ相手に研究されていないところもあるだろうが、その力量を認められた時にどのようなプレーを見せてくれるか期待される。
個人的にはこの3バックシステムと選手配置は非常に興味深かった。可変システムを取り入れており、それが選手の特性と非常にマッチしていたように思う。
攻撃時のキーマンは須貝。須貝は右CBというよりは、役割的にはサイドバックのように振る舞っていた。結果として福田が高い位置を取ることにより、右肩上がりの4バックのような運用が成されていた。

もともと攻撃的なSBであった福田をより高い位置で使うことで攻撃力をより活かす意味があり、さらに自陣左サイドのエンリケや佐藤からピッチを斜めに横断するサイドチェンジの受け手にもなった。
ドリブルでボールを持ち上がれる須貝がDFラインに入りことで攻撃の起点となり、また単純に後方の人数が増えた3+2の形によりボール保持は安定し、相手のプレスにもおおよそ耐えられるようになった。これにより、出しどころが無くロングボールを蹴ってしまうような場面は減少し、ビルドアップの問題はだいたい解決したと言ってよかっただろう。
また、守備では松田の役割が重要であった。高い位置では3トップとなりハイプレスの構える一方で、自陣での守備では中盤に下がり5-3のブロックを形成する。

前線と中盤を行ったり来たりするような運動量が求められるポジションは松田はうってつけの存在であった。この守備陣形の副次的な効果として、エリアルとマルコを前線に残せることで、常に危険なカウンターを相手にちらつかせることができる。その威力は広島戦で十分に発揮され、敵地での勝利の大きな要因となった。
この3バックシステムは福岡戦、広島戦、岡山戦と3試合で使用された後、チームは再び4バックシステムへと回帰することになる。一見上手くいきそうな3バックシステムであったが実は大きな問題を抱えていた。その辺りの話は後述する。
再び4バックへ
第6節のセレッソ戦から再び4123システムに変更となる。この試合では、石田の初スタメンとなった。狙いとしてはわかりやすく、「宮本の同系統のDFである石田をそのまま当てはめるとどうなるか?」ということだろう。

石田は元所属のいわきFCでは、3バックの左CBとしての出場であったが、機動力に優れ縦パスを通す技術もあるという、宮本の代役としてはうってつけの人材であった。京都では4バックの右CBという難しい役割なのだが、多少人に食いつきすぎる傾向があったものの、守備面でも大きな破綻を見せず、特に縦にパスを通す感覚はCBとしては他のメンバーには無いものであった。守備だけでなく攻撃の起点としても十分に期待できるプレーだった様に思う。ところがこの試合、72分で交代するわけだが、以降の試合でベンチ入りもしていない。なぜだ。

引き続き長崎戦のスタメン。エリアスの怪我や連戦であるためメンバーの入れ替えがあるが4123は継続。ただこの試合はテーマは「鈴木とエンリケのCBが成立するのかどうか?」で合ったように思う。鈴木とエンリケ、ともにDFとしてはJ1で通用するコンビであるが、どちらもそれほどスピードに自信のあるタイプでは無く、それゆえに京都のハイラインを維持できるのか疑問はつきまとっていた。相手次第ということはもちろんあるのだが、まずまず安定した守備が出来ていた。この試合では右SBに須貝が起用されていたのだが、須貝は福田に比べると比較的控えめなポジションを取るため、特にCB(鈴木)が広大なスペースを守らなくていはいけないという場面が少なかったのもあるだろう。次は福田がSBに入ったときにも守備が成立するか?というの課題か。
一方で攻撃面、ボールの前進になるのだが、こちらの解決は厳しそうという評価になる。エンリケはまずまずボール運びができるのだが、鈴木は難あり。上手くボールを前進出来ずに詰まってしまう場面が散見された。またシステムの都合上、ソンジュンへの負担は大きく、ルーキーに問題解決をお願いするのは虫が良すぎる話だろう。
補足であるが、「原大智が居ないのになぜロングボールを蹴ってしまう?」という疑問が多く上げられていた。これに対する回答は「しかたなく蹴っている」になるだろうか。

4123システムでは、最後方からのビルドアップを2CB+1アンカーで開始することが多い。SBが高い位置を取りたがり、IHのビルドアップへ関与する意識が薄いためだ。そのためボールを持ったCBとしては、前に出しどころが見つけられず、ターゲットになる選手がいないにも関わらず、ボールをとにかく前に蹴るしかないのだろう。
安定かカオスか
京都は開幕からシステムが落ち着かず併用する形となっている。では、一旦成功したかのように見えた3バックから、どうして4バックへと回帰するようになったのだろうか。それは、編成の問題が大きく壁となったからだ。
3バックシステム(3421)では須貝を右CBとして起用することで、3バックと4バックの良いとこ取りを狙った可変システムとしていた。ただ、須貝を右CBとして使ってしまうと、ウイングバックとして起用できる選手が福田と佐藤響のみになってしまう。交代できる選手がベンチから居なくなってしまうのだ。3バックを採用した試合では、最終的にいわゆるファイヤーフォーメーションと呼ばれる無茶起用の配置となってしまっていた。以下がその例である。(名古屋戦では終盤に4バックから3バックに変更している。)



広島戦では最終的にこの布陣から点が生まれ勝利につながるのだが、福田の右CBはとのかく、奥川と新井のウイングバックは、相当に無理のある起用だろう。結局、奥川や新井といった、本来は攻撃で特徴のある選手が、自陣深くまで帰って守備をすることになり、当然その守備も上手く行くものではなく、ただ相手の狙い目となってしまっていた。
サイドの選手が足りないので3バックシステムは維持できない。どういう方針で選手編成を行っていたのか疑問に思うところだが、選手の離脱が続いた現状が想定外であったのは想像できる。一見よく見えた3バックシステムはそもそもの構想には無い、有り合わせの材料で作ったものだったのだろう。
もう一つ、3バックシステムを諦めることになった理由らしきものがある。3バックシステムが機能している間は、守備でも攻撃でもよく機能して、試合の安定性が増していたように感じていた。ただその代わりにゴール前での迫力というのも失われていたようにも思う。得点は相手のミスが絡むもので、流れの中からの得点には至っていなかった。試合が安定すれば、チャンスシーンもそれだけ増えそうな物なのだが、京都の場合はその理屈は通用しないようだ。
数的優位という言葉がある。この言葉からどのような場面を想像するだろうか。ボランチが落ちる動きでビルドアップを助けるとか、サイドバックがオーバーラップを掛けてサイドを突破するだとか、そういったチャンスを作る場面ではないだろうか。おそらく京都ではこの数的優位をシュートを打つ場面でも適用させている。極端な言い方をすれば、相手守備よりも人数が多ければマークが外れてシュートを打てるということだ。
3バックシステムでは後方に人を割くため、当然相手ゴール前で人数は掛けられない。上手く行っているように見えても、実はそうではないというカラクリはここにあるのではないだろうか。残念ながら京都の選手は数的優位という価値を利用しすぎているようにも思える。それゆえに個々での駆け引きをする動きに乏しく、それに伴い連動した崩しにも繋がらない。そういった状況であることが3バックシステムの導入により、あらわになったのは、自分的にはちょっとした発見だった。
現実的に4123に戻した後は、ゴール前での攻撃の迫力はぐっと増している、ただしやはりビルドアップには難儀し、守備も心もとなくなる。それでも得点力を上げたい。4バックに戻した理由の中に、そういったものがあるようにも思える。安定かカオスか。どちらが良い悪いではなく、その選択はもうチームの哲学とか思想という領域の話になるのだろう。
ここまで京都の序盤戦の道のりを簡単に振り返ってみた。試行錯誤は繰り返しているが、最初に挙げた問題解決の決定的な策はまだ見つかっていない。勝ち点を見るとまずまずなのだが、試合内容の良し悪しの目安となるゴール期待値(全体の13番目)、被ゴール期待値(全体の18番目)の数値は芳しくない。難しい状況であるのは間違いない。ただ、こういった困難な状況を打開するために知恵を絞り、もがき続ける――そういった過程を見守ることがチームを応援する面白さであり、翻ってそれがサッカーの面白さではないだろうか。