
はじめに
決定機を何度も作りながら、ゴールは一つも生まれなかった。
そんな試合を「内容では勝っていた」と言えるのか。
内容と結果の間には、しばしば越えられない壁がある。
サッカーとは、いったい何をもって「優れていた」と言うべきなのだろう
データ分析シリーズその2である。
サッカーデータ分析シリーズ ~僕達はゴール期待値を信じて良いのか~ - Take it easy
前回の記事では、「そもそもゴール期待値は信用していいのか?」というお題を扱った。2019年から2025年までの、選手それぞれが記録したゴール期待値とゴール数を比較することで、ゴール期待値の信頼性が高いことを検証した。
ここで仮説をもう一歩進めてみよう。ゴール期待値が高ければ、ゴール数は増える傾向にある。サッカーはゴール数を競う競技であるため、ゴール数が増えれば当然試合に勝つ確率は高くなるはずだ。では、「ゴール期待値が高ければ試合に勝つ確率も高くなる」という三段論法は、果たして成立するのだろうか?
「そもそもゴール期待値が高いとゴールが生まれやすいのか」ということをそういえば俺たちははっきりわかっていなかった。素晴らしい。次は試合でゴール期待値が高い方のチームが勝っている割合など出していただけると捗ります……なにとぞ…… https://t.co/lueem1EleG
— いぬゆな🐕 (@inuunited) 2025年9月11日
収集したデータのスペック
今回は試合ごとに記録されるチーム全体のゴール期待値を収集する必要がある。これはフットボールラボ様のサイトから収集させていただいた。
下記のページのように、マッチレポートのページには試合結果や各種スタッツに加えて、チームごとのゴール期待値が記載されている。これらのデータを使って分析を行う。
鹿島アントラーズ 2025 マッチレポート | 2月15日 vs 湘南 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
ゴール期待値は勝ちにつながるのか
収集したデータのスペックは以下の通り。
- J1、J2、J3の試合を収集対象にする。カップ戦は含まれていません。
- 収集した試合スタッツは2019年から2024年まで。ゴール期待値が2019年から記録されていることと、2025年はまだシーズンが終了していないので、一応外している。
- 収集したデータの総数は6055試合となった。
「ゴール期待値が高ければ試合に勝つ確率は高くなる」という仮説を検証する。ただし、より正確に言うならば「(相手チームよりも)ゴール期待値が高ければ、試合に勝つ確率が高くなる」という仮説である。そこで実際に検証する項目としては、「相手チームとのゴール期待値の差に対して、勝ち点を何点取っていたか?」とする。
以下が集計した結果である。数値はすべてホームチームを主体とする値である。
- xG差:アウェイチームとのゴール期待値の差。
- 試合数:ゴール期待値差に該当した試合数
- 平均勝ち点:該当ゴール期待値差で得られる平均勝ち点。
- 勝ち引分負け:それぞれの結果の割合。

数字ばっかりではなんなので、ゴール期待値差と得られる平均勝ち点のグラフが以下となる。

グラフを見れば一目瞭然ではあるのだが、結果は「相手チームとのゴール期待値差が高ければ高いほど、得られる勝ち点は増える」という結論になる。よって最初の仮説「ゴール期待値が高ければ試合に勝つ確率は高くなる」は、概ね裏付けられたと言える。一方で、相手とのゴール期待値差が1.0~1.5あったとしても6割程しか勝利していないし、逆に-1.5以下のゴール期待値差でも約2割の確率で勝利できるとも言える。そのため、「ゴール期待値の差は勝率に影響を与えるが、勝敗を決定づけるものではない」と補足のある方が適切だろう。
他にも図から得られる情報としては、
- 試合の約半数は、ゴール期待値差がー0.5から1.0の間に収まる。つまり、一方的な試合は少なく、内容的に競った試合になる可能性が高い。
- ホームから見てゴール期待値差はマイナスよりもプラスである場合が多く、ホームチームの方がよりよいチャンスを作り出す可能性が高い。
- ゴール期待値差が1.0を越えたあたりで勝率は急に伸びる。ある種の目安と言えるかもしれない。
このあたりだろうか。
内容と結果の乖離
試合内容を評価するにはどうすればよいだろうか?
サッカーでは長年、こうした課題が存在してきた。結果を評価するには最終スコアを見ればよいが、そのチームがどれだけ良いプレーを続け、どれほど試合を優位に進めていたのか――その「内容」を数値で表現することは容易ではない。試合内容の良し悪しを数値で表現することは果たして可能なのだろうか。
そういった要望に応える形で提案されたのが「ゴール期待値」である。「ゴール期待値」という名前は、一見すると未来を予測する指標の様にみえるが、実際には「どれだけ質の高い得点機会を作り出したか」を示す数値である。
ゴール期待値を扱う上で重要な考え方として、「ゴールは実際に決まるかどうかは驚くほど偶然に左右される」ということだ。シュートに対して思わず出した足に当たって方向が変わる、ゴールポストに当たったボールがGKにあたりゴールに吸い込まれる、あるいは、GKが信じられないようなスーパーセーブで大きなチャンスを防ぐなど。足でボールを扱うという不自由さを強いるサッカーにおいて、ゴールというのは運の要素が大きく作用する。
ゴール期待値はチャンスの質を測定する指標であり、実際の得点結果よりもはるかに分析しやすい。ゴール期待値という指標は、お互いのチームがどれだけ良いチャンスを作り出していたかを数値で示す。そのうえで、両チームが「本来、何ゴールを奪っていてもおかしくなかったか」そして「どちらのチームが勝利を手にする可能性が高かったか」を判断する基準となる。
先の項で、「ゴール期待値差と実際に得られた勝ち点」を分析した。分析結果を見れば、以下の説明に納得してもらえるのではないかと思う。
「ゴール期待値は試合結果を決定づける数値ではないが、どちらのチームが試合を優位に進め、勝利へと近づいていたかを示す手がかりになる。」

