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〜どんよりとした気持ちにさせる劇的な勝利〜 2017 J2リーグ 第8節 京都サンガ VS 愛媛FC


愛媛FCの間瀬監督といえば、イビチャ・オシムの通訳を努めていたことがよく知られています。
オシム譲りの独特な言い回しが特徴的ですが、監督としての腕も確かで、
昨年はJ3秋田を4位まで引き上げ、今年はJ2愛媛の監督として順調にステップアップしています。
彼のような王道を歩んできていない人にも監督としてチャンスが与えられたという点でJ3が創設された意義もあるのでしょうね。
愛媛はオフシーズンに監督と共に大量の選手が抜けてしまい厳しい戦いが予想されていましたが、
ここまで2勝3分け2敗と健闘している印象です。

前節の横浜FCでは為す術もなく敗れてしまった京都サンガ
いよいよダメなのか?という空気が流れる中。
3バックから4バックへのチェンジ。そして闘莉王のFW起用という奇策に打って出ます。
この思い切った切り替えが結果につながるのでしょうか


◆奮闘する超高校級の岩崎
この試合のマンオブザマッチは3得点を上げた闘莉王で間違いないわけですが、
スタメンでは2試合目の出場の岩崎は同様にチームに貢献するプレーを見せていました。
来月行われるU-20日本代表として活躍が期待されているだけに、
これまで京都に来た新人選手とはものが違いますね。
運動量や当たりの強さなど、特にフィジカル面の充実が目につき、
プロで通用するどころかチームの攻撃を牽引しはじめています。

この試合で岩崎がこなしたタスクを挙げていくと・・
・ロングボールを落とすFWへのサポート。
・単騎でのドリブルによる陣地挽回。
・左サイドからのクロス。カットインしてのシュート。
・中盤に戻っての守備ブロックの形成

これだけの仕事ができた事がそのまま彼の能力の高さを証明しているのですが、
一方で気になる場面もありました。

前半34分あたりです。
ドリブルを奪われた岩崎が守備にもどった場面です。

図にすると岩崎はこれだけの距離を走っていることになります。

これだけの距離を走って守備をしようとしていた岩崎の事を
守備の意識が高い、運動量が凄いなどと褒めてはいけないことだと思います。



動画から切り出してみました。
この場面、愛媛のカウンターの人数はドリブルしている選手を含めて4人。
それに対して京都のDFは3人しかいません。ボランチ2人は行方不明で、湯澤は遅れてしまっています。
はっきり言うと異常な場面です。
岩崎はDFラインのまで守備に戻っているのですが、結局サイドの裏を取られて決定的な場面を作られています。
残酷な話ですが岩崎が戻ってきたのは文字通り無駄走りになっているのです。

岩崎は責任感が強く、自分が失ったボールを取り返すために追いかける傾向があります。
チームとして組織化できていない守備のずさんさを埋めるために、彼の気持ちに頼った走りでカバーさせてしまって良いのでしょうか。
どれだけ運動量に自身のある選手であっても走れる量には限界があります。
彼が守備のために使ったエネルギーをそのまま攻撃するために使えるとすれば、
今よりももっと素晴らしいプレーで得点を狙うことも出来るはずです。

そして何よりいくら年代別代表のエースである選手だとしても、
高卒新人の岩崎にここまで負担をかけないと成り立たないチームなのでしょうか。
岩崎のプレーは素晴らしいとただ見ているだけではなく、チームビルディングを今一度見直すべきではないでしょうか



◆失点シーンにみる組織の不安定さ
京都サンガは攻撃から守備への切り替え(ネガティブトランジッション)に問題をかかえています。
それは開幕戦からずっと変わっていません。

1失点目は守備でのミスがいくつも重なった事による失点です。

○吉野がボールを奪い返そうしてかわされた
アップになっていて見にくいのですが、動画の5秒あたり岩崎が失ったボールを吉野がすぐさま奪い返そうとしています。(図1)

ボールを奪うために素早く寄せるという動きはリスクを伴います。
この場面では吉野はボールを奪い取れずDFラインの前のスペースを守るのがソンミンだけになりました。
ソンミンはボールを持った相手が前進するのを防ぐために中央に居なければなりません。
その結果、逆サイドに大きくスペースをあたえサイドを変えてからの攻撃を受けることになります。

もしボールを奪い返しにいかずにそのままスペースにとどまって居たとすれば(図1−2)
ソンミンと2人でスペース守ることになり、サイドを変えられたボールに対してソンミンが寄せる事も可能だったでしょう。
また、サイドチェンジを防ぎ京都の左サイドのよりスペースのない方にボールを誘導させて守る事も出来たのでは無いでしょうか。

この場面で一番問題なのは吉野だけがボールに対してアクションを起こしている事です。
ボールを失った後にすぐさま奪い返すの守備の一つのやり方です。良いとも悪いとも言えるものではありません。
しかしこの場面の様に1人だけが動き、チームとして意思統一が出来ていないと
スペースを与えて相手の攻撃スピードを加速させるだけの悪手となります。

エスクデロが守備に戻れていない。
動画0:13、逆サイドにボールを展開された場面です。(図2)

ここではエスクデロが守備に戻るのが遅く、オーバーラップした愛媛の2番と14番にスペースを使われ、
ワンツーでサイドバックの裏を取られてクロスを上げられました。
守備に回った時ボールと逆サイドの選手はカウンターの起点となるために若干前目のポジションを取ることがありますが、
ここでは京都がボールを奪われてから若干の時間があったにも関わらず、エスクデロが守備に戻れていませんでした。

ここではエスクデロにはすぐさま自陣に引き、危険なスペースを埋めてほしかったところです。(図2−1)



○吉野、闘莉王がDFラインまで戻ってきているが、相手シャドーの飛び出しについていない。
動画0:18、京都の右サイド深くまでボールを運ばれクロスを挙げられた場面です(図3)

正直言ってなんでこうなるのか良くわかりませんでした。
7番が2列めから飛び出してくる動きに対してマークにつくべきは吉野と闘莉王になるはずなのですが、
二人とも後ろに戻ってきているだけで守備になっていません。
PAに京都の選手は8人戻ってきていますが、なんとなくいるだけで相手のマークにつく事ができていません。
よく見ると大外から飛び出してきている愛媛の5番の選手も前に入られています。
クロスが7番の選手に合わなくても5番の選手がシュートを決めていたでしょう。


ここまで失点場面での守備のミスを細かく見ていきました。
印象としては、局面ごとに各自がどのように振る舞うかが決まっていないように見えます。
そのため個人の判断だけで動き、チームで連携して守備をするという事ができないのでしょう。
これではいつまでたっても失点が減ることはありませんね。


◆4バックで解決したのか
もう一つこの試合で語るとすればシステムを3−4−3から4−4−2に変更したことでしょうか。
ここまでの低迷の原因の一つが3バックのシステムではないか?と語られることは多かったのです。

攻撃面では岩崎を中央からサイドに移した事により前を向く回数が増え攻撃性を強調できたのは良かったのですが、
ボランチに守備的なソンミン、吉野を置いていたことを差し引いても、ボールの動かし方は拙いものでした。
ビルドアップを何度も試みてましたが前線に届くことなくボールロストしてしまうために、
FWのオリス、闘莉王にロングボールを上げて岩崎がボールを拾い前に進むという攻撃が最も効果的になっていました。

そして問題になるのが守備です。
サイドハーフが手薄なために守備に苦手なエスクデロを使わざるを得ず、弱点として愛媛に狙いを付けられていました。
そしてDFラインの人数が一人減ったぶん、攻撃から守備へ切り替わった時に単純に守備の数が足りなくなっています。
この試合では2失点したわけですが、さほど攻撃力のない愛媛を相手にして決定的な場面を何度も作られていた事に目をつぶるわけにはいきません。

結局はシステムを変えるという小手先の対応では上手く行かないんですね。
このチームにはごまかしきれない問題点がたくさん有るということに頭が痛くなる思いです。
個々の選手を切り取って見てみるとそれほど悪くないように見えるんですけどね・・・



◆ひとりごと
私達の選手には個の力があるんだ!と宣言しただけの試合。
6試合ぶりの勝利だけども、こんなにもやもやした気持ちになるのは、
闘莉王をFWで使うというなりふり構わず戦法が、「まだリーグ戦8試合目なのにそれもう最後の手段やん!」という想いからだろう。
けが人が多いとは言っても8試合たってもなかなかこれと言った形が見えてこないのには、そりゃないよ〜と一言声をあげたくもなる。
きっとこのまま劇的に変わったりしないんだろうな。
去年のセレッソのサポーターの方々もこんな気持でシーズンを過ごしていたんだろうな。