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2024年 J1 第12節 京都サンガ VS 町田ゼルビア ~師匠と弟子の対戦~

 

 

・質実剛健、基本に忠実な町田

昇格したチームながら、首位に立つ町田。どんなサッカーをするのか非常に楽しみでした。ロングスローがフォーカスされることが多いですが、プレースタイルとしては奇をてらったものではなく、むしろ基本に忠実なように思います。幅と奥行きを使ったボール保持。コンパクトな442の守備。奪ったら素早く裏を狙うFWとワンタッチで出されるパス。いずれもサッカーの教科書に載っているようなプレーばかりです。けれども、その精度は高く、全体の意志が統一されているため、ミスが大変少ないチームでした。

 また、選手のキャラクターとプレースタイルが合致しているのも好印象です。2トップは、ターゲットマンのオセフンと、こぼれ球を回収役の荒木。サイドには縦の突破が期待できるナサンホと藤本(と平河)。ボランチには、ボールを奪うのが得意な柴戸とキック精度の高い仙頭。近いポジションの選手の特徴の組み合わせもよく考えられています。

 パワーとスピードを重視したスタイルは、Jリーグでは特異な存在であり、他チームが苦手としているスタイルです。Jの強豪がACLに出ると大変苦労するのと似たような感じですね。スタイルの噛み合わせの良さもあり、好成績を収めるのも決してまぐれではないチームでした。

 

・奇策に溺れる京都

 試合序盤には、一美のバーをヒットさせるシュートや平賀のライン間でボールを受けてからの仕掛けなど、十分に町田守備陣に脅威を与えていたのですが、試合が落ち着いてから雲行きが怪しくなってきます。

 20分経過したあたりから、町田がプレスの勢いを緩めたことから、京都はビルドアップによる攻撃を開始します。ここから非常に疑問に思える振る舞いを見せます。

 IHやアンカーの選手がCBの間に入り、攻撃の起点になろうとする動きはこれまでありましたが、SBが内に入る、いわゆる偽サイドバックの様なポジショニングを始めます。

何かしら意図を持ってこの様な振る舞いをしていたと思うのですが、残念ながらどういう狙いだったのかよく分からなかったというのが現実です。また、全体のバランスも悪くなり、相手が待ち構える空間に出された平戸の縦パスは、町田のショートカウンターを誘発し、失点の原因となりました。

 その後もよく意図が分からないポジショニングが続きます。特に右サイドバックの宮本は、中盤どころか右IHのポジションを取っていました。それでは右IHの川崎はどこに行ったのか?左IHの平戸が低い位置に落ちるため、おそらくトップ下、攻撃のフリーマンの様な役割と推測されます。大きく動き回り、時には左サイドライン際に張っているという様な場面もありました。攻撃時にポジションを変え、変化をつける事はよくあることです。ただし、この日の京都の様に、不自然なほどにポジションを移動するのは疑問に感じます。ここまでバランスを崩すと、守備に切り替わった時、誰がどこを守るのか曖昧になるからです。

 宮本のポジショニングについて、試合後のインタビューで鋭く追求されています。インタビューの聞き手の方も、自分と同じ様に疑問を感じたのでしょう。

--1失点目について。
ハッキリとは覚えていないんですが、たしか僕は内側にポジションを取っていた気がします。あれはチームとして狙っていたものです。(右サイドでコンビを組んだ)僕と(鈴木)冬一はルヴァンカップ(1stラウンド2回戦)の長野戦や練習試合で長い時間を一緒にプレーしていて、ああいう関係性で崩していこうという話はしていました。そこで結果的にミスをしたのが(平戸)太貴くんだったけれど、あそこでトライするべきだというのは僕たちも話していました。トライしたあとのリカバリーが、チーム全体として少し低かったのかなと思います。

--今日はSBが外側ではなく、内側のポジションを取っていたのは?
冬一が左利きなので、彼が外に張れば、縦にも仕掛けられるし、内側にも入ってこられます。そこのコンビネーションを出せれば、相手の脇のところも空いてきます。僕と冬一の関係性はけっこううまくいっていたので、もっと右サイドへのパスをアピ(アピアタウィア 久)から引き出すべきでした。

--SBが内側のポジションを取る利点が攻撃面である反面、ボールを失った直後に守備でサイドへ戻るのに時間がかかるという欠点もある。そこで相手がサイドを狙うことに対して、遅れを取っていたようにも見えたが?
そこは、何かを得るときは何かを失うこともあります。そこで守備的にいくんじゃなくて、攻撃のクオリティーをもっと上げるべきだなというのは、今日の試合の反省として大きく出たのかなと思います。

最後の質問などは、まさに失点シーンについて問いただしていますね。試合全体を見てもサイドバックの裏をスペースをカウンターで狙われる場面は多くありました。

 これまでの京都の攻撃のパターンとしては、3トップと3センターが中央に集まり、こぼれ球を制した所を空けていたサイドをSBが上がってきてクロス、というものでした。左SBの佐藤響がドリブルをしながら中央のスペースに侵入してくる事はありますが、サイドバックはサイドを上下するのが基本的な役割です。それがなぜ、この試合で急に内側に入ることになったのか?その狙いに成功の算段が立っていたのだろうか?

1失点の少し前の時間、20:48あたりです。アピがボールを持った時、内側に入った宮本とアンカーの金子が、大外に張っているであろう冬一にパスを出すように指示を出していますが。しかし冬一へのパスは出ません。それどころか、試合中、同じ様な形になっても、ついにアピから冬一へのパスが出される事はありませんでした。

もっと右サイドへのパスをアピ(アピアタウィア 久)から引き出すべきでした。

宮本はこう語っているのですが、宮本と冬一の意図は、アピを始め他の選手達にしっかりと共有されていたのでしょうか?戦術的な意図を持った振る舞いも、チーム全体に伝わっていなければ、それは絵に書いた餅になってしまいます。試合中にほぼ現れなかったというのは、現象として明らかにおかしいと言わざるを得ません。

 なんとか状況を良くしよう選手達は皆がんばっています。ただし、それぞれの選手が描いている絵が一致していないのです。それでは、いくら頑張っても良いプレーにはつながっていかないでしょう。これが今の京都です。

 

そこにある道

試合途中から選手達が戦意喪失したように見えるほど、ショッキングな敗戦となりました。ショックを受けたのは0-3という点数以上に、町田のスタイルが原因だったようにも思えます。

・前線からのプレッシング

・こぼれ球への競り合いの強さ

・奪った後の素早いショートカウンター

・ターゲットマンへのロングボールを使った前進。

・プレスをかわせる程度のボール保持

ここに挙げたのは町田のプレースタイルです。しかしこれは、いずれも京都がこれまで目指してきたであろうサッカースタイルでもあるのです。曺監督が指揮を取り、4年目になろうとしていますが、京都よりも先に町田がそのスタイルを高いレベルで表現出来たのは、自分にとっても大変ショックな出来事であり、曺監督の求心力にも影響が出てしまうのでは無いか?と心配にもなりました。

 一方で、目指していたスタイルが十分に可能性があることを、町田が結果を持って示しているとも言えます。京都にとってはこの敗戦は、これまでおざなりにしていた部分を見直す良い機会になるのでは無いでしょうか。いえ、そうしなければいけません。幸いにも町田が良いお手本であり、チームを向上させるヒントはたくさん提示されています。敗戦から学ぶことができれば、後に意味のある敗戦だったと言える様になるでしょう。