試合の結果は1-0で鹿島の勝利。最小点差であったため、京都が食い下がった試合か、鹿島が試合運びの上手さを見せた試合と言うべきか。評価としてはどちらもありそう。ただ、この試合で注目すべきなのは、京都の戦術に大きな変化があったことだろう。それは「修正」という言葉で片付けることは出来ず、スタイルの変更と表現しても大げさではなさそう。そこで、どの様な変化があったのかを確認できた範囲で挙げていく。なお、水曜日の天皇杯でサブメンバーであったにも関わらず、同じ様な動きを見て取れたので、この変化は選手が主体的に行った可能性は低いと考える
プレッシング
高い位置からのプレッシング。京都の代名詞とも言える特徴的な振る舞いであったが、より精度を高めるべく、修正が加えられていた。
守備時の京都は4123の形からプレッシングを行う。主に3トップがきっかけをつくるが、IHが前にでてプレスを仕掛けることもあった。
思い切りよく相手CBにプレスをしていると言えるが、中盤の選手との連動が行われず、相手ボランチをフリーにしてしまっていた。足元の技術のあるCB相手だと、仕掛けるプレスが、逆に前進を促してしまうという課題も抱えていた。
そうした状況で、対鹿島よりプレッシングの型が変更される。(直接的にボールにプレッシャーを掛けるというよりは、ボールの取り所に誘導しようという狙いが見えた。)
守備が4123の形から始まるのはこれまでとは変わらない。そこからボールを持ったCBに直接寄せていくのではなく、中央へのパスコースを防ぐ事を第一にするようになっていた。ワントップのウタカが、相手CBからボランチへのパスコースを切るために、何度も首を振っていたのが印象に残る。
守備に次の段階として、2パターンに分岐する。
まず1つ目。中央を締めることで、相手CBからSBへとパスが出されると、SBに対してウイング、またはIHがプレスを仕掛ける。それをスイッチとして、京都中盤3人がボールサイドに寄せて、ボールの行き場所を無くし、ボールを奪いに掛かる。守備のやり方としては、比較的スタンダードなものでは無いかと思う。
2つ目の形は、京都ウイングが相手CBに対して、外から内向けにプレスを仕掛ける。こうすることで、相手CBからSBをパスコースを消して中央へのパスを促す。ここでも京都ワントップはパスコースを切るポジションを取っている。パスコースを限定させることで、中央であってもボールの奪い所として機能する。
この試合の中盤3人は、川崎、金子、井上というこれまでになかった組み合わせ。彼らは元々アンカーとして使われていた選手である。相手ボールを誘導させた先にいる中盤で奪う、という守備戦術を明確にする起用であった様に思う。
相手CBやGKに対しても積極的に仕掛けるプレスは昨年から行っていた。けれども、カテゴリがあがり、平均的な技術レベルの上がった試合では積極性が逆に作用する場面が多々現れていた。より理詰めで相手を追い込むプレッシングへの変更は、その悪循環から抜け出す一歩になるかもしれない。実際プレスがハマっているという、久しぶりに味わえる感覚があったからだ。
気になる所でいうと、相手CBに時間をある程度与えてしまうことになる。鹿島戦でも3,4度あった様に、ロングボール一発で高いラインの裏を取られるリスクが出てくる。京都CBには相手FWとの駆け引きに十分に注意する必要がある。
ウイングのウイング化
文字にすると意味不明だが、京都ならではの事情がある。これまで京都のウイングは内に入りストライカーの様な役割を求められていた。結果的に3人のFWが中央に位置し、1トップ2シャドーの様に振る舞う。大外はサイドバックが上がるためのスペースとして空けられていた。ゴール前に人数を掛けるためにこの様な移動を行っていた。ただ、中央には元々IHが居ることもあり、狭いスペースを使うのに苦労していたのは否めない。
鹿島戦からは、ウイングの振る舞いが変わる。本来の役割である幅を取るようになった。左ウイングに荒木が起用されていたのも、ドリブルによるサイド攻撃を期待してのものだろう。後半途中から右ウイングに本来左SBの荻原が置かれ、大外でボールを受けてからカットインをする場面も見られた。
ウイングが大外に開くためSBの振る舞いも変わってくる。後方から上がってくる時にも内側、いわゆるハーフスペースを狙って走り込む。このハーフスペースにはSBだけでなく、IHも頻繁に狙ってくる。ウイングが外に開くことによって、相手守備陣形を間延びさせてその隙間を狙う意図がある。
7月からサイドアタッカーである佐藤響の加入が決定しているが、ウイングの役割変更を見越しての補強であるのかもしれない。
ビルドアップ時のSBの役割変化
主に天皇杯清水戦で見られた振る舞いとなる。
これまで京都はビルドアップでは、2CBとアンカーの3人。それプラス逃げ場所としてのGK、という形で行っていた。ビルドアップを最小限の人数で行うことで、前方に人数を掛けるというメリットがある。しかし試合を重ねる内に相手チームの研究が進んでいった。ビルドアップ要員の3人、特にアンカーに対してマークを強めることによって、前方へのパスコースを消しつつボールの持ち手の時間を削る。そうしてCBに精度の低いロングボールを蹴らせる、というのが京都対策として有効であると、共通認識の様な状態であった。
天皇杯の試合では、ビルドアップに大きな修正が行われていた。4バックの内、左SBは高い位置を取らず、右SBは内側に入り、アンカーの選手と共にボランチとして振る舞う。結果として3-2の形となる。流行りの言葉でいうと、偽SBの採用となる。
白井、荻原のような上下運動を強みにした選手に偽SBをやらせて良いのかという議論はあるが、こうして、3-2の形を取り複数の三角形を作ることで、相手プレスを無効化し、安定したビルドアップを実現させていた。
ビルドアップで後手を踏む試合が多かっただけに、安定してボールを運べる様になることで、これまでとは試合の様相が変わってくる可能性はある。
スローインからのサイド展開
重箱の角をつつくようではあるが、これまでになかった動きなので挙げておく。
ピッチ中央あたりでのスローインから、一気に逆サイドへと展開する場面が何度か見られた。
・9:46 飯田 ワントップへのロングスロー(成功)
・15:11 飯田 逆サイドへのロングスロー(成功)
・16:58 スローインを受けた豊川がワンタッチで展開(失敗)
・32:10 飯田スローインから金子がワンタッチで展開(成功)
スローインと言うのは、攻撃側も守備側もそれ専用の動きをするため、セットプレーの一つとして考えられる。特に守備側はボールサイドに全体を寄せることで、ボールを奪いに掛かる。当然逆側には人が少なく、逆サイドまで展開できればマイボールにしやすい。となれば、決め打ちで実行しても有効ではないか。
実はこのアイデアはリヴァプールで実際に行われていた。
京都のスローインの元ネタがリヴァプールかは定かでは無いが、似たような発想に行き着いたのかもしれない。
他に目に止まった変化点としては、
・ロングボールに対して、CBとアンカーのサポート関係。
・守備から攻撃への切り替え時でのワントップへのボールの当て方。
などがある。
突然の変身
鹿島戦、天皇杯清水戦で起きていたチームの変身には素直に驚いている。前の試合から間隔が1週間であったにも関わらず、一部を修正したという範囲に留まらないドラスティックな変化が起きていたからだ。勢いを重視していたチームが、途端にモダンなサッカーを志向するようになった。
どうしてこんな変化が起こったのだろう?
なぜこの時期に変化を起こしたのだろう?
一体誰が主導でこの変化を起こしたのだろう?
いくつもの疑問が頭をよぎるが、シーズンが終わった頃にその答え合わせがあるのだろうか。ただ、今はっきりしているのは、選手達がこの変化を好意的に捉え、手応えを感じている事だろう。鹿島戦後の選手たちの悔しそうな顔。そして天皇杯清水戦後の充実した表情。それがチームの方向性の正しさを示しているのかもしれない。