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京都サンガ 2022シーズンの展望 ~2021シーズンレビュー を添えて~

2022年、いよいよ京都はJ1に挑戦することになります。鬼が出るか蛇が出るかわからないその舞台。嬉しさ半分、怖さも半分といったと事でしょうか。

選手編成もいったんは落ち着いた様ですし、チームの活動も始まったところで、今年の展望のような物を書いておきます。

 

以前にチーム分析の記事を書いています。こちらも参考にしてくださると、わかりやすくなるかもしれません。

www.tomex-football.net

 

昨季の振り返り

今更言うまでも無いのですが、昨年のJ2リーグを2位という結果で見事昇格しました。長年低迷していた京都が昇格したということで、一体どんなサッカーだったの?という疑問は出てくるわけです。自分なりに考えては見たのですが、これがなかなか難しい。一言でこうです!と、上手く言えないんですね。

シーズン通して試合を見ていると、チームの微妙な変化を感じ取れます。最終的にチームをどこに持っていこうとしていのか、試行錯誤を繰り返していたようでもありました。

キジェ監督が就任1年めということで、試合に勝つというのと、自分流のチームを作り上げる工程が重なっていた結果であったのかもしれません。

とりあえずはスタッツを見てみましょう。

・42試合 勝ち点84 24勝 12分 6敗

・得点59 失点31 得失点差 28

京都サンガF.C. 2021 日程・結果・試合比較 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB

やはり特筆すべきは失点の少なさでしょう。サッカーではだいたい平均失点が1.0あたりで、守備が良いと評価されます。一方で、京都は1を切るどころか0.7という、かなり凄い数字を叩き出しました。(無失点は21試合!)

「良いFWが居れば試合に勝てる、良いDFが居ればタイトルが取れる」という格言めいた言葉もありますが、京都が昇格出来たのは、この守備力の賜物であったのでしょう。

 

攻撃的な配置 ≒ 失点数の低下

ところがです。京都の基本的な姿勢としては、前に人数をかけて積極的にいく、というものでした。チーム分析の記事で選手の配置について書いているのですが、攻撃時には両サイドバックともに高く上げるため、2143の様な形になります。

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敵陣に人数を多く掛け前掛かりの陣形をとるにも関わらず、失点はかなり少なかった。一見、矛盾しているようでなかなか面白い現象です。以下、自分なりの解釈です。

京都のサイドバック、飯田と荻原、控えの白井もそうなのですが、どの選手もスピードとドリブル突破が売りの非常に攻撃力のある選手たちです。1対1になると、積極的に勝負をしかけるため、彼らが高い位置を取ると、相手はどうしても注意を払わなければいけません。結果として守備側のサイドの選手を押し下げることになります。

両サイドの選手が押し下げられるとどうなるか?カウンターを仕掛けるのがとても難しくなります。守備側が前線に残せるのはFW一人か二人くらいでしょうか、サポートの距離は遠く、孤立した状態にさせられます。さらに京都はすぐにボールを奪い返そうとカウンタープレスを仕掛けてくる。そうなると、意図したボールはなかなか蹴れずに、京都のCBとアンカーに簡単にクリアボールの争いを制され、ボールを回収されてしまいます。

要するに両サイドバックを高く上げた布陣は、攻撃だけでなく守備にも良い効果が生んでいたのでしょう。ただ、このボール回収の循環を成功されるためには、失った時のカウンタープレスをしっかりするのはもちろんなのですが、強いCBが居ることも条件になります。幸い、京都のスタメンCBバイスと麻田はこの条件に当てはまっていました。バイスがリーグの中でも上位の強さを持つCBであるのはわかっていたことですが、麻田がここまで出来るというのは意外でしたね。本多からポジションを奪ったのも競り合いの強さを買われていたのでしょう。

どこまで計算してデザインを組み立てていたのかは、見ている側からはわかりませんが、選手の特徴とその狙いが上手くリンクしていて、非常によく出来た仕組みだったと思います。

ただ、この守備の仕組みが成立していたのは、あくまでも京都のCBが相手FWと相対的に強かった、というリーグ全体の状況も加味する必要はあるのでしょう。昨シーズンはJ1から降格してきたチームはなく、体感的にも手強いFWも少なかった様に思います。磐田のルキアン、長崎のエジガル、都倉、ぐらいでしょうか。こいつはやべえと感じさせるような選手はやっぱり少なかったですね。少し先の話ですが、相手選手のレベルが一段階あがるJ1で同じ守備の仕組みが通用するかな?という不安はやっぱりありますね。

あと、記憶に残ったのはシュートブロックかな。ゴール前で押し込まれた時にも落ち着いているとまでは言いませんが、しっかり相手を見て、シュートモーションに入ったら、必ず1歩2歩前にでる。そうした守備での集中力は素晴らしかったです。

失点の少ないチームの試合を見る時によく感じることですね。とにかくシュートがディフェンスに当たると。そういった、勝つチームの条件みたいなものを京都が見せてくれたのは本当に良かったです。

 

苦心の火力調整

次は攻撃面の話をしましょう。得点数は59点。1試合平均になおすと1.4くらい。失点とのバランスになると、こんなもんかな?という印象はあるんですが、シーズン終盤戦では決定力不足、というワードを耳にする様になりました。これはおそらく前述した、前に人数をかけた布陣から来ているのでしょう。そんなに前掛かりなのに、なんでもっと点を取れないの?という。

結論からいうと、攻撃的な布陣をとると必然的に相手は守備にかかる人数が増えます。そういう状況下での、得点を取る術に乏しかったというのは言えるでしょう。特にPAエリア内で相手DFのマークを上回る選手が少なかった。宮吉ぐらいしか居なかったんですね。クロスからの得点が少なかったのも同じ理由だと思います。

選手のタイプにも原因はあったでしょうか。運動量を最優先に考えているために、ボールを持った時の創造性という意味で犠牲にしていたのもあります。ゴール前まで押し込むまでは行くけれど、そこから先の、相手を崩すという地点に行くのには苦労していました。チームコンセプトから外れている守備での運動量に難のあったウタカですが、得点を考えるとやはり外せなかった。居てくれて良かったというのが本音です。

もう一つ目についた所でいうと、チームコンセプトの方向性です。

シーズン序盤では、とにかく切り替えを早くボールを奪ったら前に進む、というコンセプトを、試合展開的に無理が出てきていても、忠実にこなそうとしていました。これは監督が志向するサッカーとして、予想に沿う内容でした。ただ、シーズンが進むにつれて徐々に変化していきます。終盤では特に顕著だったのですが、プレッシングを仕掛けてボールを奪った時に、直線的にゴールを目指すのではなく、キープする選択肢を取るようになっていきました。とにかく攻めるのではなく、一旦は全体のバランスを整えようと、そういう意図があったと思います。

京都の得点が思ったよりも増えなかった要因としては、ボール奪った後にすぐに攻める、いわゆるショートカウンターを仕掛けなくなった事があると思います。その変化には、前に急いだ結果、逆にボールを奪われカウンターを食らうのを嫌った、そういう気持ちの面での変化はあったのかな、と推測しています。攻守の切り替えを繰り返す激しい展開ではなく、落ち着いた時間を長くする。そうして、失点を減らして負けない試合を多くする。そうした狙いがはっきり出た結果が、終盤3試合続いたスコアレスドローなのでしょう。

チームに起きていた意識の面での変化は大変興味深ったです。大げさなのかもしれませんが、オリンピックで日本とやったスペインみたいな印象だったんですね。基本は相手陣でボールキープする。失った時には全力で奪い返す。ただし焦って攻めることはしない。相手が崩れるのを辛抱強く待つ。京都は最終的にはそんなチームになっていました。

この変化が選手主導だったのか、監督が意図して変化をさせていたのか、それは分かりません。監督が理想としていたのは、プレッシングを軸に激しいトランジションを繰り返すゲーム、というイメージ。それは改ないといけないのかもしれませんね。

 

チーム構築の工程

監督のサッカー志向が出てきたので少しだけ。色々と最新のサッカーを取り入れてはいるけれども、極めて日本的なチーム作りをする人だなと思います。自分が見た感じでは。

そう思った一番の理由が、ピッチ内での選手の裁量がかなり大きかった事ですね。川崎のインタビューでもあったのですが、バイスが上がってくるのには特に条件というものはなかったようですし、同じポジションでも選手によって動き方が大きく変わるのもそうでした。特に武冨と中川ですか。J1からの移籍組として、期待していたんですが、怪我もあったんでしょうが、あまり試合で使われることはありませんでした。その理由として、とにかく動きすぎるんですね。他の選手のポジションと重なる事も多くて、チームとして馴染んでいるとは言い難かったのです。プレーの評価をするにあたって、あまり縛りのようなものを付けずに選手の意図を尊重してるあたりが、日本的なチームの作り方だなと感じた次第です。

プレッシングを重視しているために、そこまで気を使うことがないという理由もあるのですが、相手を見て自分たちを変化させる事をあまりやらない。相手がどうこうよりも、とにかくその時点での最強をぶつける。スタメンではそのような傾向がありました。それ故にシステムや選手を変えることで試合展開を変えるという場面は少なく、そこは気になる所ですね。

積極的に若手を使う思い切りの良さ、なおかつその選手が試合のレベルに十分に達しているかの見極め、そのあたりの判断は流石というか。なかなか出来るものでは無いです。選手起用の妙を堪能させていただきました。これもやはりその人自身のパーソナリティを基準にしているのでしょう。

 

2022シーズンの編成から

クラブ予算のシビアな面が見えるなか、新戦力として獲得したのはFWとDF、GK。前線と最後尾ということで、試合を決定づけるポジションに狙いを絞った戦略というのは納得が行くところです。それでも、獲得できた選手たちは、J1ではスタメンを勝ち取れなかった選手であったり、J2での経験しかなかったりと、現在のクラブの立ち位置というのを否応なく突きつけられている様でもあります。

ポイントになるのはバイスを外して、CBの入れ替えを行った事でしょうか。1年通してのスタメンだったバイスと契約しなかったのには驚いたのですが、理由を探そうとすれば見つけることは出来ます。バイスは単騎勝負であれば非常に頼りになる選手で、前述した守備の仕組みもその強さを利用したものでした。反面、DFラインのコントロールや周りと連携をとっての守備はあんまり。J1になるとゴール前での守備が増えることが予想されるなかで、守備の統率という面をマイナスポイントと捉えられたのかなあと。(若原や麻田が守備を仕切るのはちょっと想像つきません。)

というわけで、新たにやってきた、井上、メンデス、アピアタウィアがどれだけ出来るのか?というのは試合を成立させるための鍵になるのでしょう。中央の数を稼ぐための3バックの採用もあるのではないでしょうか。

3バックのついでに。FWを特に多く採ったのですが、おおよそ中央のポジションの選手で、それもあって1トップ2シャドーの3421システムを採用するのではないかと。

ただそうなると、補強のなかったサイドポジションが足りないような気もしますね。昨年と同じく、飯田、荻原、白井、むりやり荒木、むりやり本多。といった所でしょうか。それでも昨年と同じような前掛かりの433を採用するのも、ちょっと怖い気もします。スペースのある中でJ1レベルのFW達とのこぼれ球争いをCB達が勝つことができるのか。こっちも心配になってきました。

ともかく、どのやり方でも足りない箇所は出てくるわけです。なんと言ってもJ2を2位で昇格してきた一番格下のチームなのですから。他を眺めると、幸いにも順位的になんとか勝負できそうなクラブがいくつかはあります(どことは言いませんが)。後ろを固めるか、前にでて混乱を起こすのか。どちらかというと、やはり前に出て行くことを選ぶのでしょう。それがスタイルというものです。幸運を掴むためには、前を向いて進んでいく必要はあるのでしょう。

長年J2を見守ってきた身としては、怖いもの見たさが大半ではありますが、J1での挑戦を楽しんでいきたい所です。