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2024年 J1 第2節 京都サンガ VS 湘南ベルマーレ ~高すぎる要求は要求と言えるのか~

 

締まらない序盤戦

試合開始から勢いを付けるためのロングボールが続く激しい展開になるかと思いきや、ただの蹴り合いにはしたくないというのが両チームの意思。特に京都は少し工夫を加えての攻撃を仕掛ける。序盤から頻繁に見られたのが、IH武田と川崎がSBの位置に落ちる事。通称サリー(サリーダラポルピアーナ)の変形であり、ビルドアップを安定させる目的でよく行われる。ただし京都の場合、ちょっと目的が違ったようだ。後方からショートパスをつないでいくというよりは、精度のあるボールを蹴るためのフリーを作る意味合いが強い。実際に右サイドバックの位置に落ちた川崎や、前線から降りてきた原や武田と協力してフリーになった冬一からアーリークロス気味にボールが蹴り込まれる。それに合わせるのはマルコと豊川。裏に飛び出すタイミングも早く、今年はこれでやっていくんだという準備は伺える。

 湘南の序盤もダイレクト志向が強め。鈴木章とルキアンのフィジカル面での優位を期待したボールを送り、実際に期待に答えて攻撃の起点となっていた。守備面では特に原大智がボールを持ったときのプレッシャーは早く、キーマンに仕事をさせないという意識は強い。

 最初にチャンスを作ったのは京都。7分、湘南のサイドチェンジをカットした鈴木冬一が自陣から長駆し、マルコにパス、後方から走り込んだ福田のシュートはキーパーに防がれるもロングカウンターの形を見せた。長いドリブル後に精度の高いパスを通した冬一の能力が垣間見えた場面であった。しかし、京都にとってこの場面は、その後の厳しい展開を暗示するものでもあった。

 11分、湘南は左サイドのスローインから一気に右サイドへの展開。先のカウンターの場面と違い、冬一が前に出るタイミングは無く、2対1の場面を作られてシュートを打たれてしまう。なぜこの様なチャンスを作られてしまったかというと、それは京都の守備に理由がある。11:40にサイドを変えられるのであるが、スローインに対する守備とてしても、京都の選手達は極端にサイドに人数を掛けていた。中盤3人だけでなく、マルコと豊川までもはサイドにいる。故に逆サイドに展開され、一気に人数不利とスペースを与えることになる。一人中央に残った原に対処させるのは無茶だろう。

 この試合、最初の得点は湘南のCK。跳ね返したところのミドルシュートを田中が決めたのだが、そこに至るまでの計算が湘南にはあった。京都のCK守備はゾーンとマンツーマンをミックスさせたものである。マークを受けている湘南の選手達は、京都のゾーン守備に入り込むことによって、京都の守備が1列になるように誘導している。そうしてミドルシュートを狙える十分なスペースを確保したのではないだろうか。また、ゴール前に選手を密集させることで、キーパーに十分なプレーをさせないという意図も合わせてあったのかもしれない。どちらにせよ、京都のセットプレー守備をよく研究していたのは確かだろう。

 先制点を取ったことで湘南ペースに傾くかと思いきや、京都がすぐさま同点に追いつく。ゴール前に押し込まれたところで、クリアー気味のロングボール。なんてことは無いボールであったが、上手く回収したのはマルコ。右サイドを駆け上がった福田につなぎ、中央へのクロスを豊川が決めてみせた。ボールを受けてから、GKのタイミングを取らせない間合いで打ったシュートに、ストライカーとしての質の高さを感じさせる。湘南守備陣としては、人数優位の状況であったにも関わらずロングボールの対処を失敗。悔やまれる失点となった。

 

京都の危うい設計図

 同点に追いついた京都がさらに攻め立てる。が、ここから怪しげな展開を見せ続ける。20分、右サイドに上がった川崎のクロスをクリアーされてから、中央につながれてから、ドフリーとなった右サイドの池田へ、外してくれてよかったと言うしかないカウンターだった。この場面、京都はプレスによって中央でボールを奪ってからの右サイドアタックではあったが、注目すべきは中盤3人のポジショニング。3人共が右サイドに固まっている。故にボールを失ったあと、誰もいない中央のスペースを使われ、慌てて食いついた冬一の裏を付かれることになる。

23分には、湘南右SBの鈴木雄を二人で囲んだにも関わらず、裏へのスルーパス。鈴木章かGKとの1対1。またしても外してくれて助かった。前半通して、相手GKやCBへのハイプレスに限らず、とにかくボールホルダーへの守備が甘く、そうなれば狙われるのは高いDFラインの裏だ。29分にも、浮き玉を収めた鈴木章からルキアンへのスルーパス。GKとの1対1はソンユンがなんとか止める。外してくれ(以下略)

 前節から京都は極端に横圧縮する守備を志向している。無論、人数が多いだけに局面としては有利ではあるが、サイドへの展開を許せば一気に危うく守備である。「サイドへの展開をさせ無ければ」その全体が崩れピンチを迎える場面が、何度となく繰り返される事となる。前半通してであるが、ハイプレスはともかく、攻守の切り替えやボールホルダーへのプレスが甘い。横圧縮も高いDFラインも、ボールへの寄せという基礎が成り立っていないため、ただの守備の隙でしかなかった。時間が経過していくにつれ、なんとか持ち直しつつもあったが、早め早めに裏へと送るロングボールも実らず。上手く行かないなという気分だけが残る前半戦となった。

 

研究と対策

ハーフタイムで京都はマルコに変えて山崎を投入。誰もが想定していた前線3人で反撃にでる。どころが試合の大勢は変わらず。京都CB陣は湘南の2トップルキアンと鈴木章をなかなか抑えられない。この2トップはフィジカルが強く、裏狙いを軸に幅広く動き回る。ただ、苦労している一番の原因は、ボールホルダーに時間を与えてしまっていることだろう。すなわち持ち味であるはずのプレッシングに強度を出せていない。50分、54分と危険な場面を作られる。後半になっても湘南ペースは変わらない。

 湘南では2トップの他に右サイドバックに入った鈴木雄の働きが目立つ。前半に見せたスルーパスだけでなく、身体を生かしたドリブルであったり、時折中央に入っての連携も見せる判断の良さもある。湘南が今季4バックにシステム変更したのも、彼の加入が大きかったのかもしれない。

 60分、また動いたのは京都。両サイドバックに一度に変え、宮本と佐藤が入る。69分には原がCKを決めたかと思いきや、川崎がGKへのファールを取られノーゴール。後半になるとさらに顕著になるが、京都の攻撃はクロスボールに対して何人がPAに入るかに注力しており、待ち構えている相手に単調な攻撃をくりかえすだけになってしまう。時折、こぼれ球が原に入ったときにPAに侵入を図ることもあるが、これも上手く行かない。

 そうしたなかで決勝点は湘南に。CKからニアサイドでコースを変えたボールはゴール前で待ち構えていた鈴木章の元に。京都のソーン守備の泣き所を付いたデザインだった。湘南の2点はどちらもCKから。得点シーンだけを切り抜くと偶発性が高いゴールの様に見えるが、その確率を高めるために京都のCK守備をよく研究した仕掛けを組み立てていた湘南へのご褒美なのだろう。

京都は平賀、安齋と前節に劇的なゴールの立役者となった二人を入れてその再現を狙うが、このまま試合は終了。昨年に続き、ホーム開幕戦を落とすことになった。

 

2024年の京都サンガとは

2試合消化した時点で、「昨シーズンと比べて変化はあるか?」という問には「変化はある」と答えられる。しかし、「それは上手く機能しているか?」という問に対しては、「そうとは言えない」という答えになる。

まずは攻撃面について。

京都の攻撃は「得点を取るためには、クロスに対して合わせる選手の数をどれだけ増やせるか」という発想が軸となっている。今年はそれに加えて、「相手の守備が間に合わないタイミングで素早くクロスをあげる」という要素がプラスされている。ロングボールが多めではあるが、それたターゲットに当てるのではなく、相手の裏を狙ったボールである。

典型的な場面でいうと、58分、右サイドバックの福田からアーリークロスが上げられた際、ゴール前には4人が待ち構えている。数を稼ぐために、IHの二人がペナルティエリアに侵入してた。

ではこの方針によってピッチ上では何が起きていたのか。

「相手の守備が間に合わないタイミングで素早くクロスをあげる」、これを成立させるには、まずFWは裏に出されるクロスに合わせようと常にDFラインと同じ高さを取る。さらに、ボールとは逆サイドのIHはゴール前の人数確保のため、FWと同じ高さまで上がっていく。ただし、IHが前にでることで中盤は薄くなり、早いタイミングでクロスを上げるためにDFラインの押し上げも間に合わない。結果として前後に間延びした状態を自ら引き起こしてしまっていた。こうなるとクロスを跳ね返されたボールは相手に拾われる確率が高くなり、二次攻撃を仕掛けるのが困難となるだけでなく、間延びしたスペースを残された選手達だけで対処することは難しく、カウンターをまともに受けてしまう。つまり、自分たちのやりたい攻撃を実行したいがために、全体のバランスが大きく崩れ、リスクを負ってしまっていたということだ。そのリスクに見合うリターンは本当にあるのだろうか?という疑問が浮かぶ。

 

もう一つ気になった場面を挙げる。34分、左サイドバックの冬一からのアーリークロスを川崎が合わせた場面。おそらく、これがチームが描く理想形なのだと思う。ただ、この場面でも不合理が潜んでいた。

実は攻撃の開始時、川崎は右SBのポジションにいた。そこからゴール前に飛び込んだ事になる。素晴らしいランニングと言えるかもしれないが、自分はやりすぎでは無いかと思う。

この試合の川崎に与えられていた(本人がやろうとした?)タスクは以下となる。

・右SBに落ちて、後ろからのビルドアップのサポート

・敵陣入るとサイドに張って、サイドバックのサポートとクロス

・逆サイドからのアーリークロスに対するPAへの飛び込み

・横圧縮のために左サイドまで出るスライド守備

はっきり言うとやること多すぎである。試合中よく顔を出すが、プレーがぼんやりしたのは、走りすぎとタスクをこなすので精一杯だったのでは無いか。。。Jリーグの中でもこれだけのタスクを90分こなせる選手がいるのか、ちょっとイメージが湧かない。

 

川崎に限らず、中盤3人の不出来がよく挙げられている。これらのタスク過多に加えて、「より早いタイミングでクロスを上げる」ことによって生じる中盤の空洞化を埋めるのに必死で、クオリティを発揮するまで至らなかったのでは無いだろうか・・

 

続いて守備面。

プレスを厳しく掛けようという基本方針は変わらない。今年加えられたのは極端な横圧縮だ。わかりやすい例を挙げる。

これは京都のゴールキックから再開された場面だ。サイドに追い込んだボールに対し、中盤3人全員がハーフスペースに居る。極端な横圧縮を掛けているのがわかる。横圧縮することで、より強くボールにプレッシャーを与えることが目的なのは想像するまでもない。

こちらも当初の目論見どうり進んだとは言い難い。スペースを圧縮しているにも関わらず、肝心なボールホルダーに対してのプレッシャーは弱く。あっさりとサイドを変えられたり、裏を取られたり。散々な前半だったのは、効果のない圧縮が原因と言って良いと思う。

京都はマンツーマンディフェンスを志向している。人に対して守備をすることで、プレスの強度も保っていた。ただ、これは以前からの傾向であるのだが、マークする相手が居なくなると途端に守備がぼやけてしまう。言い方を変えると、スペースやパスコースを塞ぐという事を苦手としている。極端な横圧縮の守備は、選手たちにかえって守備の基準を見つけるのを難しくさせてしまったのではないだろうか。

 

攻撃の約束事と守備の約束事、これらを組み合わせるとポジションを整える時間がほとんど無いことが分かる。攻守両面において、自らバランスを崩した状態を招き寄せている。もっとも、攻守ともに成功させれば何の問題もないのだが、それはあまりにも自分たちに都合が良すぎる発想ではないだろうか。

 

ひとりごと

・前節のレビューで「今季のテーマは、いかにして原大智にいい状態でボールを渡せるか」と書いたのだが、原大智がいる意味がほとんど無いサッカーをしていたのには、本当に驚いた。

・偶然の確率をできるだけ高めるための努力をするのが、サッカーにおける再現性という言葉の真の意味では無いかと思う。そういった意味で伸るか反るかという博打ばかりを仕掛ける今年の京都のサッカーは大いに疑問がある。

・とはいえ昨年の例からいって、あっさり捨てる可能性は十分にある。妙な独自性を出すことだけは、勘弁してほしいというのが本音。