ポジショナルプレーのお話はまだまだ続きます。
僕はポジショナルプレーを定義する
ポジショナルプレーがややこしい概念であることがわかった、じゃあ次はその概念とは何なのだ?という訳で、自分なりに導き出した定義を示しておきます。
「ポジショナルプレーはポジショニングによる優位性を利用し、相手守備ラインの突破を積極的に狙い、ポジションを入れ替えながらもボールを中心とした攻守に強固な構造を保ち、試合の主導権を握り続ける事を目指す。」
ポジショナルプレーの定義を書いてしまうのは危険であることも感じてはいますが、色々と時間を掛けて調べた結果を勇気に変えて書かせてもらいました。
自分としてはポジショナルプレーとは勝利を目指すためのサッカースタイルの一つであると捉えております。
ここからは、どうしてポジショナルプレーがこのような形になったのか、時間をさかのぼる形で成立過程を追ってみます。
ポジショナルプレーの普及
ポジショナルプレーが世の中に広まっていったのは、グアルディオラがバイエルンの監督に就任した2013年あたりとされています。
グアルディオラは、それまでバルセロナで行われていたサッカーをバイエルンでも再現しようと考えていました。そこで問題になったのが、ドイツで育った選手たちにどうやってバルセロナのサッカーを教え込むのかです。
バルセロナでは中心選手対は育成年代から伝統的なサッカースタイルを教えこまれているため、自然と同じ思想を持ち、意思統一が図られています。ところがバイエルンではその土壌がない。一から教え込まなければなりません。そういった必要に迫られてポジショナルプレーは誕生しました。
ポジショナルプレーの指導をするために、下の図のように区分けしたピッチでトレーニングを行ったことがよく知られています。
(引用:https://spielverlagerung.com/2014/12/25/juego-de-posicion-under-pep-guardiola/)
理想のプレースタイルが言語によって体系化された事で、選手たちの理解は進み、チームに浸透していきました。その効果はいまさら言う必要も無いでしょう。
ポジショナルプレーの源流を探る
ポジショナルプレーがバルセロナのスタイルを元にしていると説明しました。バルセロナのスタイルとしてイメージされるのは、選手の技術を全面に押し出して、ボール保持率を極限まで高めた攻撃的なサッカーです。
では、そのサッカーはいつ確立されたのでしょうか。
歴史をさかのぼると、ヨハン・クライフという偉大な監督にたどり着きます。1988年からバルセロナの監督に就任したクライフは、90-91シーズンからリーグ4連覇を果たし、華麗なプレーで勝つことを目指したチームはドリームチームと呼ばれました。
そして、ただ強いチームを作ったというだけでなく、自身の持つ強烈な思想とカリスマ性で、バルセロナというクラブに大きな影響を与えることになります。
"Al fútbol se debe jugar de manera atractiva, debes jugar de manera ofensiva, debe ser un espectáculo". by Johannes Cruijff
「サッカーとは、魅了的、攻撃的にプレーすべき。スペクタクルであるべきだ。」by ヨハン・クライフ
グアルディオラとクライフが出会ったのは選手と監督という関係でした。 ヨハン・クライフはアカデミー出身のグアルディオラを抜擢し、ドリームチームの中心として重用していました。
グアルディオラはクライフから大きな影響と受けている事を後に語っています。グアルディオラはバルセロナの思想、クライフの思想を受け継いだ正統な後継者なのです。
“El legado de Cruyff es infinito” by Pep Guardiola
「クライフの遺産は無限だ。」by ペップ・グアルディオラ
時代を先取りしたトータルフットボール
バルセロナのサッカーを作り上げたヨハン・クライフ。彼の思想は選手時代に志向していたサッカーがベースとなっています。
1974年のワールドカップ、監督リヌス・ミケルスとピッチ上でのリーダーであるクライフを中心としたオランダ代表のサッカーは「トータルフットボール」と呼ばれ、世界に衝撃を与えました。
動画の中でトータルフットボールの特徴が紹介されています。
1,前方から積極的にボールを奪いに行くボール狩り。
2,ボール狩りに伴ったオフサイドトラップ。
3,スイーパーの様にプレーするゴールキーパー。
4,CFクライフの自由なポジショニング。
5,ポジションにこだわらない流動性。
4と5について補足すると、この時のオランダ代表にはポジション=役割という考えかたはありませんでした。FWだから攻める、DFだから守るというのではなく、各選手がスペースを作りスペースを使うというのを繰り返す事で、激しく位置取りを変えた全員攻撃全員守備を実現していました。その当時行われていたサッカーとはあまりにもかけ離れていたために、未来のサッカーと呼ばれるほどでした。
“In my teams, the goalie is the first attacker, and the striker the first defender.” by Johannes Cruijff
「私のチームでは、ゴールキーパーが最初の攻撃者であり、ストライカーが最初の守備者となる。」by ヨハン・クライフ
世界に衝撃を与えたトータルフットボールでしたが、後に続くチームはなかなか出てきませんでした。理由として考えられるのは、トータルフットボールが難しすぎたからでしょう。
ポジションを激しく入れ替わるというこは、攻撃も守備も出来る、加えて優れた戦術眼を持った選手を揃える必要があります。それが簡単では無いことはすぐに想像できます。加えてオランダ代表でいうと、試合中にクライフがポジショニングの指示を出していたと言われています。やはりトータルフットボールはクライフという天才が居なければ成り立たなかったのでしょう。
トータルフットボールからポジショナルプレーへ
ここで再びポジショナルプレーに戻りましょう。
ポジショナルプレーは新しい発明ではなく、それまで共有されていた概念、というニュアンスの説明をファンマリージョがしています。
ポジショナルプレーはまったく新しいサッカーではありません。それまで続いてきた長いフットボールの文脈から生まれたものです。そして歴史をさかのぼると、トータルフットボールに行き着きます。
ポジショナルプレーの特徴を見てみると、そこにはトータルフットボールが持っていた特徴がアレンジを加えて残されている事が見受けられます。
ボール刈りは、素早い守備への切り替えを行う「5秒ルール」へと変化しました、自由なポジションチェンジは、5レーンによるルールを加えることで破綻することを防ぎました。スペースを意識した攻撃は、3つのポジショニングによる優位性として定義づけされました。
ポジショナルプレーは現代版トータルフットボールであると考えています。
クライフが描いたトータルフットボールの理念は、バルセロナというクラブを通してグアルディオラに引き継がれ、 さらにパコ・セイルーロ、ファン・マリージョの協力を加えて、ポジショナルプレーへと進化しました。
グアルディオラが称賛されるのは、強いチームを作った指導者だからという訳ではありません。トータルフットボールをアップデートすることに成功し、サッカーのレベルを一段階引き上げた人物だからです。
参考資料
・What is Total Football? Famous tactics explained: the clubs, countries & players to use it
・Juego de Posición under Pep Guardiola
・サッカー戦術クロニクルゼロ トータルフットボールの源流と未来
・"El legado de Cruyff es infinito"
・How Johan Cruyff changed soccer into 'Total Football'