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2023年 J1 第24節 京都サンガ VS コンサドーレ札幌 ~勝利のパラドックス~

 

 

3-0の衝撃

中断明け2連敗と悪い流れの京都でしたが、それを断ち切りホームで見事な勝利を飾りました。PKを決めた止めたが、試合の大きな分かれ道であったことは間違いないですが、内容から見ると京都の勝利が妥当な結果だったのでは無いでしょうか。京都特有のじめじめした暑さにやられていたのか札幌の選手の動きは悪く、単純な運動量だけでなく、多少の接触があっても前進し続けられるコンタクトの強さと言った、フィジカル面で京都が常に優位にたっていました。それに加えて京都が割り切ってスペースを狙ったシンプルに縦に進むという戦略も噛み合い、複数得点を得ることができました。原大智が初得点。福田は2点目。パトリックも2桁得点に乗せるなど、得点者もまたチームに勢いをつけそうです。

 札幌はやはり夏に移籍した金子拓郎の抜けた穴が大きかったのでしょう。またCFの小柏が出場できず、小林祐希を置かざるを得なかったのも辛そうでした。サポートの早さやパスの技術など集団でのボール保持には上回っていたものの、京都の守備陣に対し、質的な優位を取る選手が不在であるため、最後の1手に掛ける展開となりました。後半には京都が5バックに変更しゴールに蓋をしてしまってからは、打つ手無しと言ったところでしょうか。

 

快勝した京都ですが、ちょっと気になる所があります。

ここ数試合は攻撃の方向性が不明確だったので、「自分たちがボールを受けたら前に運んでいく」、「スペースがあったら前に運ぶ」という明確なテーマを全員で共有できたことが勝因だと思います。

明治安田J1 第24節 2023年8月19日 北海道コンサドーレ札幌 戦 マッチレポート | 京都サンガF.C.|オフィシャルサイト

前の2試合、柏戦とFC東京戦。内容に乏しく、サポーターからは、かなり厳しい声が飛んでいました。ビルドアップを試みる動きが見えるも全く機能せず、何をやりたいのか良く解らない試合となりました。そこで札幌戦では後方からつなぐというよりは、裏のスペースを単純に狙っていく方針に切り替え、結果を得ることができました。(これは札幌だからという所もありますが)

 自分がこの流れに引っかかるのは、開幕からの数試合でも同じ事をしていたからですね。鹿島戦、名古屋戦でビルドアップからのボール保持に手を出して失敗してから、ダイレクトなサッカーに切り替えて、FC東京、湘南、横浜FCに勝利しました。

 チームとして成長するためにビルドアップにチャレンジするのは解りますが、1シーズンに2度も同じ失敗、キャンプを挟むとチームの様子がおかしくなるのを見ると、正直なところ、現体制ではボール保持を成立させるのは望み薄なんだろうなと感じています。過去のブログ記事内で、せめて休憩の意味でもボールを持つ時間を増やしてみてはどうかという趣旨を書いた記憶があるのですが、もう諦め気味です。出来ることをやるほうが良いのでしょう。下手に色気をだすとチームに混乱をもたらすだけなのでしょう。

 平戸と谷内田が中盤に入り、彼らが持つスキルでなんとかボール保持を成立させて期待された時期もあったのですが、札幌戦の様にチーム方針をダイレクト志向に修正するのであれば、残念ながら出番は少なくなってしまうのでは無いでしょうか。こぼれ球奪取や、運動量を優先させた選手がスタメンになり、途中出場のエクストラキッカーとしての役割に留まりそうな気がします。また再度ボール保持にチャレンジする時が来るかもしれませんが。

 途中出場と言えば、パトリックに触れておきましょう。スタメンでなくても、プレーにブレがなく得点を重ねる彼には本当に助けられています。ではなぜスタメンではないのかというと、切り札を残して起きたいと言うのはありますが、それよりもプレスの機能することを優先しているように思えます。現時点での3トップは木下、山崎、豊川です。トリオで使われる回数が非常に多くなっているのですが、彼ら3人の特徴としてはプレスの判断が良いことでしょう。プレスに行く所、留まる所の判断が適切だという事です。こう言っては申し訳ないのですが、他の選手になるとプレスに行きすぎるんですね。周りが準備できていないにも関わらす、一人で行ってしまう。結局プレスは機能せずチームには不利益になってしまう。選手によって、こういったバラつきが出てしまうのがチームの特徴として残念なところなのですが、3人がファーストチョイスなのはそういった理由がありそうです。そうなると、木下と山崎が怪我してしまっただけに、次節以降がちょっと心配です。プレスの有効性がポイントという事です。

 まとめの様な話になりますが、昨シーズンと変わった所でいうと、昇格組であったり、条件的に有利な試合をきっちりと勝てているのが大きいです。昇格した年は、本当に複数の条件がぴったり噛み合った相手にしか勝てませんでした。J1を1年戦って残留を決めたというのは、チームにとっては本当に良い経験となりました。それをチームに地力がついてきたと表現するのならば、その通りなのでしょう。

 

滅多に見られない試合

京都VS札幌。なんてことのない対戦の様に見えますが、実際はかなりレアな試合になります。何が珍しいかというと、お互いに人を基準に守備を行うマンツーマンディフェンスを採用しているからです。

 ご存知の様に、現代のサッカーではスペースを基準にするゾーンディフェンスが基本となっています。プロレベルでマンツーマンディフェンスを採用しているチームは世界中を見渡してもほとんどありません。ましてやその2チームが対戦するなんて、滅多に見ることのできないレアな試合と言えるのでは無いでしょうか。

 お互いにマンツーマンディフェンスを志向するだけに、第三者が見ると「どうしてこうなった?!」という場面が頻発されますが大丈夫です。私達はもう見慣れています。この試合のチャンスシーンを分析すると、どうしてマンツーマンディフェンスが下火になってしまったのか、理由が見えてきます。

ここで守備の基準点についての説明です。守備時(ボールを持ってない)に選手がポジションを決める判断基準を「守備の基準点」と呼ぶことがあります。
マンツーマンディフェンスの場合、守備の基準点は相手選手。
ゾーンディフェンスの場合は、ボールの位置、味方の位置、相手の位置となります。

 

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・原大智のPK獲得(動画2:24)

 マンツーマンディフェンスは相手を基準にして守備のポジションを決めます。そのためマークする相手が居なくなると、基準を見失って曖昧なポジショニングをしてしまいます。また1対1で勝つことを前提にするため、周囲の選手達がカバーリングする意識も薄れがちです。

PKを奪ったのは、原大智が縦に抜け出す素振りを見せて守備2番を上手く釣った後、方向を変え中央のスペースを狙った動きによるものです。斜めに動くことはゾーンで守る相手にも有効ですが、マンツーマンで守る相手には更に有効です。相手一人のマークを外しさえすれば良いのですから。

この場面、札幌DF陣の裏を守る意識がお粗末だったのもありますが、マンツーマンディフェンスでは一人のエラーが大きなピンチを生むことを示しています。

 

・青木のミドルシュート(動画2:24)

この場面では京都守備陣がマンツーマンディフェンスを志向するが故に、連鎖的にスペースが生まれてシュートを打たれてしまいます。

スローインから再開、3番麻田が相手18番をマークするために、ライン際まで出ていきます。京都のCBはいったん相手をチェックするとそのまま飛び出していく約束事になっています。そうして出来たスペースを中盤の選手が下がって埋めることがセットになっています。(ここでは6番三竿と18番金子)

 ただ誰が埋めるかまでは決まって居ないようで、この場面の様に一人が開けたスペースに二人がカバーしてしまう事が散見されます。そうなると、守備ラインの前にシュートを打てるスペースを逆に作ってしまいます。シュートを打たれた瞬間、PA内に京都の選手はたくさん居ますが、効果的な場所に立てていない事が解ります。

 京都の失点パターンとして、クロスボールのクリアを拾われてミドルシュートを決められるというものがあります。必要以上にDFラインに人数を掛けてしまい、逆にスペースを与えてしまう構造的な欠陥とも言えます。札幌と同様に京都の選手もマークする相手がいなくなった時、曖昧なポジションを取ってしまいがちです。マンツーマンディフェンスの宿命と言えるかもしれません。

 

・菅の抜け出し(動画5:21)

繰り返しになりますが、マンツーマンディフェンスは相手選手を基準にするため、マークする相手が決まらないと曖昧なポジションを取りがちです。

この場面、3番麻田と24番イヨハは相手選手をマークする一方、アピと福田はマークする相手がおらず、中途半端なポジションを取ってしまいます。裏にスペースを与え、結局は抜け出されてしまいました。相手選手の守備の基準点とするため、DFラインが揃わずギャップが生まれやすいもマンツーマンディフェンスが持つ弱点でしょう。

 

・福田の得点(動画6:27)

この場面、相手のマンツーマンディフェンスを逆手に取った豊川の非常に賢い動きがポイントになりました。

豊川がサイドに開くことでマークするため札幌6番が引き出されます。そのスペースに福田が入り込み、こぼれ球を拾いシュート。マンツーマンディフェンスの原則でいうと、福田には札幌左サイドの選手がそのまま付いてこないといけないはずですが、斜めに侵入する相手にPAまで守備に戻るのは難しいでしょう。

 

ハイライト動画から、マンツーマンディフェンスを志向するがゆえに起きた現象を取り上げてみました。実際の試合中には似たような場面はもっと出てきます。こうして振り返って見ると、この試合のチャンスシーンは、攻撃によって守備を崩したというよりは、守備側が開けた穴を攻撃側が突いたという表現が正しい様な気がしてきます。

 

マンツーマンディフェンスの弱点としては、やはり相手に守備側のポジションを操作されることが挙げられるでしょう。福田の得点の様に、相手のポジショニングによって注文通りにスペースを作られてしまいます。ゴール前でこの様な工夫をされると守るのが困難になります。もう一つ、人を基準にして守るだけにマークする相手が居なくなると、効果的なポジションを取ることが出来なくなることでしょう。これについては、京都も札幌も同じ様なエラーが生じています。この辺りが、マンツーマンディフェンスが寂れていった理由になるでしょうか。

 

ではなぜ、この2チームはマンツーマンディフェンスを採用しているかという話になります。基準にする相手がいなくなると、という話を再三していますが、逆に言うときちんとマークする相手を決められると、強い守備が可能になります。理想論ではありますが、マンツーマンディフェンスでは常に数的同数を保つことが出来ます。ピッチ上の各所で起きる1対1できちんと止められればエラーは起きませんよね。あとは、仕組みが単純だということですね。やることがはっきりしているので、複雑な守備ルールを作らなくて良いという利点があります。

札幌の事情は分からないのですが、京都の場合は、切れ目なくプレスを行うため人に対する意識を常に高めるため、という意味合いもありそうです。

 

同じ悩みを抱える京都と札幌

京都と札幌。試合内容はともかく、似たような立ち位置のクラブであるように思えます。それ故にどちらのサポーターも似たような問題に悩み、それぞれが持つ意見が別れ、時にはぶつかり合いも起きています。
「監督スタッフを含めた現体制を今後も続けていくべきなのか?」

 

サポーターが持つ意見は概ね次の2つになります。
・今のサッカーを続けたとしても、J1上位に入れるほどの強豪チームに
 なる未来は見えない。問題を解決すべく、現体制にメスを入れるべき。
・J1に残留できるだけの結果は残せているのだから、現体制を続ける
 べき。監督を変えたとしても、今以上の成績を残せる保証がない。

試合の度に、これらの意見がぶつかり合うのをTwitterで見かけます。

 

京都も札幌も、カリスマ性に優れた監督が率いる特徴的なサッカーをする
クラブです。前述の通り、やってるサッカーには問題を抱えている事は明白ですが、スタイルがはっきりしているが故に、試合に全く勝てない訳ではない。けれども、優勝を狙えるほどの成績を残せる訳でも無い。
進むべきか留まるべきか、それが問題です。

 

J1に所属するクラブにとって、一番の命題は残留する事でしょう。そのため現状で達成出来ているならば、わざわざバランスを崩さなくても良いのではないかと、守りの選択をするのは十分に理解できます。それでも、応援するクラブが強豪になって欲しい、もっとできるはずなのに、そのためには前に進まなければという気持ちも、また自然なものです。どちらの意見も尊重されるべきだと自分は考えています。

 

Jリーグでの事例を見ていると、何を選べば良いのか分からなくなって来ます。
残留できているのだからと継続を選んだうちに、残留争いに巻き込まれたクラブもありますし、変化を求めたチームは、V字回復したから良かったものの開幕から14試合で1勝と地獄を見ることになりました。ここ最近のJ1で優勝を分け合う川崎やマリノスは、今の地位を築くまでに、数シーズンに渡る低迷を経験しています。

 

自分の考えですが、ある選択肢が正解であると決めつけないようにしたいなとは思っています。サッカーには選択肢がたくさんあります。決めつけてしまう事で、別の方向にある可能性を見つける事が出来なくなってしまうのではないかと。なので、色々な意見を尊重し考えてみたい、そう考えています。未来に向かっての選択、それ自体も尊重したい。

サッカーは自由度が高く、非常に複雑で、相対的な競技です。軽々に答えを決めてしまうのは非常に勿体ないのでは無いかと、そう感じています。正解を決めず、わからないものをわからないままに捉え、ただ追求していく。サッカーに対するリスペクトでは無いかと思います。