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2022年 京都サンガ シーズンレビュー ~勝っても負けても大事なのは次の試合~

紆余曲折あった京都サンガの2022年シーズンが終わりました。プレーオフには回りましたがなんとかJ1に残留。前年度はJ2の二位で昇格ということで、J1では一番下の立場ながら、勝ち点で2つのクラブを上回ったのは見事な成果です。きびしいJ1の試合を戦ってきた選手、監督、スタッフ、そしてサポーターの方々にも感謝の言葉を送りたいと思います。

 批評というには少々大げさなのですが、毎年のお約束ということで、今シーズンを振り返り自分の感じた事を、シーズンレビューという形で残しておきます。

大まかな論旨は「今のサッカーを続けると、選手の消耗が激しすぎて、安定した成績を残すのは難しいのではないか?」になります。

 

 

右肩下がりの1年間

開幕戦の浦和戦は勝利。ウタカの好調さもあり、神戸、鳥栖、柏に勝利。春先までは十分にJ1でもやっていける、そう思わせる内容を伴う結果を残していました。ただし、夏頃から試合内容が怪しくなり、勝利から遠ざかってしまいます。そこに降り掛かったのがコロナ禍。チーム全体のコンディションが低下してしまいます。特に得点力の低下は著しく、守備陣の奮闘もあり、失点は最小限に押さえていましたが、なんとか16位でフィニッシュ。プレーオフは引き分けでなんとか残留。と、大雑把に振り返るとこういう感じになります。

 

今回のレビューを書く前に、ハイライトを開幕戦から見直しました。目に付いたのは、カウンターを仕掛ける場面。長い距離を走って人数を掛けた、厚みのあるカウンターです。京都のサッカースタイルとして、一番にイメージされる場面でしょう。京都が理想とする姿であり、これを目指してトレーニングしていると過言でも無いです。

4月アウェイの神戸戦。クロスを跳ね返した所から発動したロングカウンター。最終的に相手PAに4人が侵入して得点を奪っています。

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続いてこちらも4月ホームG大阪戦。自陣でのスローインがスタート。こぼれ球を拾ってカウンター。途中交代の選手もいますが、アディショナルタイムに入った時間帯で、相手PAに6人走り込んできます。ちょっと凄いです。

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どうして、これらのカウンターが目についたかと言うと、シーズン終盤にこの様な場面がほとんど無かったからなんですね。ボールを奪った後に素早く縦に出すパスがずれたり、そもそも長い距離を駆け上がってくる人数が少なかったり。

カウンターが特別分かりやすいだけなのですが、順番にハイライトを見ていると、選手たちの動きのキレ、例えば、判断の速さやボールスキル、そもそもの走るスピードであったりが徐々に落ちている事がわかります。夏以降のコンディション低下といえば、ウタカがよく話題になります。ゴールが4月までに集中しており、確かにコンディションが低下したと言えます。けれども、コンディションの低下はウタカだけの問題ではなく、選手全員に同じように起きていた問題であったのでしょう。夏以降、京都は70分過ぎから選手の足が止まって前後分断する、というのが常態化していました。その影響はシーズン終盤の成績にも現れて居たと思います。

 

コンディション低下の原因は?

京都のサッカースタイルとして、曺監督が就任してから、ハイプレス、トランジションを重視したスタイルが継続されています。では、どうして、昨年には目立たなかったコンディション低下が起きてしまったのか。

フットボールラボのデータを引用してみましょう。ここで注目するのはポゼッションですね。

京都サンガF.C. シーズン比較 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB

昨年に比べると、

「自陣ポゼッション」の数値は、44→40の微減。

「敵陣ポゼッション」の数値が、55→38と大きく低下しています。

フットボールラボではポゼッションを「20秒以上のボールキープ」と定義しています。つまり敵陣でボールを持っている時間を大きく減らしている事を表しています。

このデータから推測される試合の展開とは、自陣でボールを奪って縦にボールを当てて素早く攻めようとする、ただしその攻撃(ボール保持)は長く続かず、すぐに守備に戻らなければいけない。こんな感じでしょう。

ボール保持の時間を作れず選手の上下動が連続してしまう。トランジションを重視するのがチームのスタイルとは言え、あまりにもその回数が増えてしまうと、選手の消耗は大きくなってしまう。その積み重ねがチーム全体のコンディション低下につながってしまったのでは無いか、そのような仮説を立てています。

もう一つ、データを引用してみます。

2022J1前半戦の被ハイプレッシング下におけるポゼッションデータ | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB

被ハイプレッシング。つまり、高い位置からプレスを受けたときのデータになります。京都の攻撃継続率47.54%というのはリーグ最下位の数値です。早めに前線にロングボールを当てているからという理由もあるのですが、要するに京都はボール保持が上手くないという事です。

基本的な話になりますが、サッカーではボールを保持すると、守備側よりも消耗を少なく出来ます。逆説的になりますが、京都が強みにしようとしている切り替えの速さを維持するためには、ボール保持の時間を増やす必要がある、とも言えるのでは無いでしょうか。

プレッシングの是非

続いて、京都のアイデンティティとも言えるハイプレスです。昨年に引き続き、J1の舞台であっても、相手CB、GKの持つボールに対して、高い位置からのプレスを仕掛けていました。ここで問われるのは、果たしてそのハイプレスは効果的であったのか?

自分が見る限りでは少々問題があったように見えます。特にウタカがワントップで出ていた試合、フォーメーションは4123の時です。ウタカはあまり守備に力を割く選手では無いので、他の選手が代わりにプレスのスイッチ役となる事が多いのですが、首を傾げる現象が起きていたのは確かです。

2つ、代表的な例を挙げます。

1つ目、相手CBに対してIHがプレスに行く場面。

この時、IHが仕掛けたプレスに対して、3センターの残り二人が連動できません。フリーのボランチに簡単にパスを通されてしまいます。

 

2つ目。今度は、左右のウイングが相手CBにプレスを仕掛けます。

この時、相手CBからSBへのパスコースを切らずにプレスを掛けてしまいます。結果、CBからSBへパスを出され、それに対してIHが遅れて対応に行く、という場面を何度も見かけました。

勢いと迫力が称賛される京都のハイプレス、ただそこには、緻密さが欠けていた様に思うのです。スイッチ役と連動した中盤のマーキング、パスコースを切りながら相手に寄せて出しどころ奪う、そういったチーム全体でボールを奪いに行く、という技術に関しては、遅れを取っていたと言わざるを得ません。

実はこの緻密さの欠如は、昨年も同じように抱えていた問題です。京都の選手達はプレスを仕掛ける時にスピードを最優先するために、パスコースを気にせずボールを持った選手に一直線に寄せていきます。また、ボールの取り所の設定が無いため、複数の選手がプレスをかけるタイミングを一致させるのも難しくしていました。

J2では相対的に相手チームとの能力差があったために、この様な粗は目立たちませんでした。ただ、J1になり選手達の平均的な技量も上がっていると、見逃せなくなってきます。特にGKが積極的にビルドアップに関わってくるチームには、ハイプレスは尽く空転してしまいます。ボールを奪えず、走るだけが続いていしまうと、前述した体力の消耗、コンディション低下にもつながって行きます。中三日の連戦になると特に厳しさが見られ、試合前から負けている様でした。

根本的な事ですが、攻撃のために守備ではエネルギーを温存するウタカを起用していながら、前線からハイプレスをしかける戦術を採用するのは、それ自体が矛盾しているのではないか、議論をすべきポイントでは無いでしょうか。

このプレスの問題は、シーズン終盤に山崎がワントップに入ることで解決に向かいます。ウイングの一人、おおよそ豊川が入ることが多かったのですが、彼がFWのように振る舞い、442の形でプレスを仕掛けていました。CBからSBへボールを出させて、サイドに追い込んで奪いに掛かる、など連動してプレスが見られるようになりました。

一見すると、問題が解決したようにも見えますが、また別の問題が浮かび上がって来ます。

戦術は人

京都は選手一人一人の裁量が非常に大きいチームです。乱暴な言い方をすると、戦術はほぼ選手に委ねられていたといって良いでしょう。

下の図は以前自分が作成したものです。

この図は京都がボール保持をしている時、4123システムの左ウイングがどの場所で主にプレーしていたかを表しています。

サイドアタッカーの要素が強い荒木の場合は、タッチライン沿いでプレーしていました。松田の場合は左ハーフスペース、PAに入ることもあります。武冨はバイタルエリアでのプレーが多く、右サイドまで移動していく場面が多く見られました。そして大前は完全に中央、ボランチ/トップ下でプレーをしていました。

これが何を表しているかと言うと、4人共ポジションは左ウイングになるのですが、一旦ボール保持すると、自分の得意としている場所でプレーしているという事ですね。他に似たような現象で言うと、武田は右IHで出場したときには、本来のポジションである左によっていきます。サイドバックの飯田や本多は、白井や荻原とは異なり、中央寄りのいわゆる偽サイドバックとして振る舞う事がありました。

京都の試合を観察していて、試合毎に選手の動き方がころころ変わるのに非常に戸惑った覚えがあります。対戦相手によって変えているのか、それともチーム戦術を試す場としているのか。散々悩んだ結果に自分のたどり着いた結論は、”選手たちは、個人の判断でポジショニングを決めている”、というものです。チームとしての取り決めというのは、特に無かったんじゃ無いかと推測しています。そうでなければ、前述した左ウイングに入った選手達の振る舞いが説明できないからです。

試合中は選手に判断を委ねる、それは曺監督の指導方針からも導かれるものでもあります。

毎週、対戦相手の試合をチェックし、戦術を練る。一方で、指導者が選手に対し答えを全て出してしまっては、選手が状況、状況に応じて的確な判断ができなくなる。そればかりか判断することをやめ、他人任せのプレーが横行する。こういうプレーが多い時のチームは、負けたという結果以前に修復に時間がかかることが多い。

 指導者は教える、選手は聞く。そうした主従関係で成り立つサッカーは、エネルギー自体が不自然なものになってしまい、「不公平な関係から形作られたもの」の域を越えることができない。「一方が正しい」ではなく「双方が納得できる」というエネルギーに、プレーしている選手、観ている人の心は動かされるのだと信じている。

 指導者とは選手のそばに寄り添うものでもなければ、電車を先頭に立って引っ張るだけのものでもない。後方支援に徹する。それも違う。指導者は選手を中心としてそれを大きく覆うもの。物事の本質は選手で、それをしっかり覆いきれる存在。そういうものかなと感じている。

どうすれば選手に心が伝わるか――。湘南・曹監督が考える理想の指導者。 - Jリーグ - Number Web - ナンバー

監督が選手を信頼しているという証拠でもあるのですが、それが裏目に出ていたように思います。

前述した様に、チーム全体のコンディション不良のため、今季はスタメンが2、3試合毎に変わってしまう状況でした。こうした人の入れ替わりが頻繁に起こってしまうと、試合中にまずやることが、味方がどんな動きをするのかを確認する作業になってしまいます。選手が変わるたびにそれまで積み上げた連携がリセットされてしまうからです。新しくスタメンになったこの選手は、試合ではどんな振る舞いをするのだろうか、他の選手はそれを探りながら試合をして居たように感じました。相手を見る前にまず自分たちを見る、この作業が入る分、不利な展開になる試合は多かったです。特にゴール前で選手同士の意図が合わない場面がよく見られました。内か外か。裏か足元か。そういった意思統一の精度がより求められるゴール前では、特にマイナスに作用したのでは無いかと思います。また、ハーフタイムでの選手交代が多かったのも、似たような原因だったのでは無いかと思います。

人が変わると戦術が変わる、それはどんなチームでも大なり小なり起こり得るものだとは思うのですが、京都の場合は特に振り幅が大きいチームでした。シーズン終盤にワントップに山崎が入った事でハイプレスが改善されたのですが、これも山崎だから上手く行ったのでは?という心配にもつながる訳です。

余談ですが、いつもチームレビューは試合中の4局面を軸にチーム戦術を分析する方法で書いていました。今年の京都に関しては、選手が変わるとやることがガラッと変わってしまうので、それを断念したという経緯があります。

グループへの組み込みの難しさ

選手自身の判断を元にチームが組み上げる、そうすると、自ずと連携が組み上がったグループが出来てきます。ここで、難しくなるのが新しい選手をグループに組み込むことです。

夏に佐藤響、パウリーニョ、カリウスの3選手が加入しました。期待されていたのですが、出場時間も少なく、思ったような成果は得られませんでした。佐藤響については、名古屋戦でのウイングバック起用には非常に期待が持てたのですが・・。

今季から新規加入した選手に目を向けると、MFの金子は、昨年からの継続された福岡、武田、川﨑の3人の中盤に割り込む事は出来ませんでした。前線では山崎がウタカの代わりに出場時間を伸ばすのですが、これはもともと湘南時代に松田、武冨、白井とプレーしていた事でグループに組み込みやすかったのが要因でしょう。他に組み込めたと言えるのは、豊川、井上になるのでしょうか。こちら二人も時間がかかり、スタメンになったのはシーズン終盤でした。

選手に判断を委ねている故に、相互理解を深めるためには、試合を重ねて積み上げる必要があります。そういったチームづくりのため、新しい選手が割り込むのはやはり難しい。外国籍選手に関しては、言語の問題もあったのでは無いかと思います。

後からチームに加わる難しさは、特別指定で加入していた木村のインタビューから伺えます。

40 FW
木村 勇大

 自分が出てからは、なかなか良い形でボールが入る展開が少なかったので、難しいゲームでしたが、ゴール前の混戦で押し込んだりクロスボールのこぼれ球をワンタッチで決めるということを意識したポジションを取りながらプレーしていました。しかし、中で準備していてもクロスボールが上がってこなかったり、動き出してもボールが出てこないことが多かったので、自分としてはもう少しボールが欲しかったです。ただ、このような展開でもなんとかゴールを決めるということができなければ、この先も難しくなります。その点では今日は力不足を痛感しました。

試合情報|京都サンガF.C.オフィシャルサイト

大学で得点を量産しているだけに、悔しさが伝わってきます。

 

一部の選手同士の間での連携がチームの土台となっていた、それは試合途中に入る選手のチグハグさからも伝わってきます。こういった事情もあり、選手交代に踏み切れない状況に陥っていました。選手同士で組み上がった連携を崩れる事が考えると、動きが落ちていても使わざるを得ない。特に代えの効かない福岡、川﨑、武田は、シーズン終盤には70分には足が止まっていまうほどに消耗しきっていました。

選手同士が作り上げる連携をチームづくりの軸にしている。そのためプレースタイルからくる消耗が大きくても選手を容易には代えられない。京都のチームづくりは、こういったジレンマを抱えています。

 

一応は自分の考える改善策を書いておきます。

・選手編成を20代前半を中心にする。

 回復力の高い選手を揃えることで、スタメンの固定化につながるのでは無いでしょうか。

・ボールポゼッションの時間を増やす、またはペースを落とす時間帯を作る。

 同スタイルの先輩とも言える湘南ですが、意図的にペースを落とす時間を作ることで90分運動量を維持する事に成功しています。京都の明確な弱点であったボール保持も改善ポイントですね。意図的にボールをキープする時間は必要では無いかと思います。

・ポジションの役割をある程度は決める。

 今の様に、自由なポジションを許すと、新しい選手を組み込むのが難しい。選手選定の基準作りにもなるのでは無いでしょうか。

 

 

評価が難しい

監督からシーズン中に盛んに出されていたメッセージが「成長」です。なんですけど、正直自分にはぴんと来なかった。

なぜかというと、選手に任せているというチームなので、評価軸がわかりにくいのですね。確かに白井はすごかった、上福元は止めまくった、福岡、川﨑はJ1でも十分にやっていけそう、麻田井上のCBコンビは板についてきた、などなど、良かった所はいくつも出てくるのですが、じゃあそれがチームの評価軸に対してどれくらい出来ていたのだろうか・・・と悩んでしまいます・・。これも、チーム戦術が曖昧なところ(わざと曖昧にしているのですが)が理由かなと。

チームとしてこういう狙いを持ってるから、この選手は実際に精度高く実行できていた!とかだと分かりやすいんですけどね。という訳で、京都は分析するには物凄く難しいチームであったと。そういう感想になります。

 

維持されたモチベーション

残留争いをしていたため、勝ち点を取れた試合はどうしても少なくなってしまうのですが、ある程度の勝ちパターンはありました。序盤にラッシュを掛けてリードを奪えれば、試合終盤に5バックに移行しての逃げ切りです。この5バックが非常に固かった。

選手の守備に対する集中力が非常に高かったのですね。GKには今シーズンのチームMVPである上福元がいますし、一旦ゴール前で守備を固めるぞと腹をくくったときの守備力は目を見張るものがありました。この守備の粘りが最終的に踏みとどまれた要因でしょう。

通常、残留争いをしているチームと言うのは、当然状況も悪く、選手の精神状態も不安定なのが常です。ですが、京都に関しては当てはまらず、勝ちから遠ざかって居ても選手の目が死んでなくて、テンションがずっと高かったんですね。それは本当に驚きでしたし、素晴らしいことだと思います。

天皇杯ではサブメンバー主体で、ベスト4まで行ったのですが、これもサブメンバーのモチベーションの高さが成し遂げたものでしょう。(戦術面での拙さは置いときます)監督のマネージメントの上手さの一端を見た気がします。

 

終わりに 大木さんからのメッセージ

熊本とのJ1参入プレーオフ。過去に京都でも指揮を取っていた大木監督が、対戦相手として京都に挑んでくる、と言うことで大変話題になりました。

その試合、自分にとっては大きな衝撃を受けるものでした。

 

熊本のサッカーを通して、ずっと大木監督に問い続けられている様でした。

「自分たちはこういうサッカーをやってきた。君たちのやっているサッカーは本当にそれで良いのか?」

京都のサッカーは何なのか。何を目指そうとしているのか。そして、正しい道をたどっているのか。改めて考えさせられています。

過去のプレーオフでの勝者を調べてみると、2018年の磐田、2019年の湘南。どちらも翌年は最下位に沈んでいます。プレーオフでの勝ち抜けが、ただの時間稼ぎに終わらないために、京都はこれまで以上に自分たちの見つめ直す必要があるのでは無いでしょうか。