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2023年 J1 第11節 京都サンガ VS 川崎フロンターレ ~チャレンジャーの気持ちを持つ者は~



Jリーグの王者と聞くと真っ先に思い浮かぶのが川崎フロンターレ。鬼木体制になってからは圧倒的な結果を残してきた。しかし今シーズンは中心選手に怪我が相次ぎ、思ったようなスタメンが組めずに苦しんでいる。もうひと押しが足りないのが特に得点数に現れている。昨年は敗戦を喫した亀岡の地で復調のきっかけを掴みたい所。京都で神と呼ばれた上福元がスタメンを勝ち取っている。

京都はアウェイ柏から中盤の構成を変更。3トップの早めの途中交代も含め、連戦を強く意識した運用になる。これは昨年終盤の苦戦を踏まえたものと想像される。プレースタイルには徐々に変化を加え、強度一辺倒のチームから脱却を図る。

 

前半は川﨑ボールのキックオフ。1手目に家長をターゲットにしたロングボール、続いてのゴールキックでも同様であった。これはフロンターレと言えども京都のハイプレスを警戒しているという現れだろうか。開始5分、実際に京都はGKまで行くハイプレスによってパスミスを誘い、自分たちのボールにすること成功している。ただ時間の経過と共にシミッチを中心としてワンタッチパスの連続により、プレス回避に成功するようになっていた。ハイプレスへの対応の早さは、鳥栖をも上回っていたのかも知れない。

京都はそれでもこぼれ球奪取からチャンスを作っていく、10分には白井からのクロス。11分には川﨑の飛び出しによって高井にイエロー。15分には川﨑の中央突破からのスルーパス。大きな得点チャンスであったが、フロンターレCBの車屋が素晴らしい守備を見せる。この日の川﨑は守備だけでなく前への意識が強く切り替えからの攻撃の核となっていた。U-22の代表に呼ばれてからは、いかにもアンカー的な守備的な振る舞いをしていたのだが、この試合に照準を合わせていただけに気合も十分だっただろうか。試合序盤は、お互いに強度も高く相手を脅かす攻撃を繰り出す、非常に内容の濃い展開だった。

20分をすぎると、一気にフロンターレの試合となる。ボールスキルの高さが前提はなるのだが、京都のハイプレスをかわすポジションバランスの良さが目を引く。京都はボールを奪いに掛かる時、特に中盤3枚がマンツーマン気味にポジションを崩す場合があるのだが、それによって生まれたスペースを上手に使っていた。特に活用していたのがアンカーのポジション。普段はシミッチがいる場所だ。図に示していたが、4123同士でマッチアップさせると、どうしても空いてしまう場所になる。

フロンターレのビルドアップに対して、京都側は3トップの中央の選手がCBからアンカーへのパスコースを消すというのが基本方針ぽかったが、フロンターレのGKを含めたボール保持に対して徐々についていけなくなり、十分に機能していたとは良い難い。また、シミッチの左右の移動により京都IHを引き付けると、代わりにフロンターレの脇坂、瀬古がアンカーポジションに現れボールを引き取っていた。そこからは幅を取ったウイングにボールを展開される。幅も高さもコンパクトに保ちたい京都側からすると、シミッチの存在は悩ましいの一言。

一方で、京都のビルドアップに対する川﨑の守備。こちらも同様に中央FWがCBからアンカーへのパスコースを消すのだが、間に合わないと見ると、すぐさまシミッチが突っ込んでくる。確かにこうすれば浮いているポジションは無くなるのだが、DFライン前のスペースを空けるのは思い切った判断だ。そうして出しどころを無くさせて蹴らせたボールをDFラインで回収するのが守備の狙いだったようだ。3トップの選手達のプレスも高い位置でボールを奪いに行くというよりは、蹴らせるという寄せ方をしていた。京都の前線は高さがあるで、あえてそこを奪い所に設定するというのは、勇気のいる戦略の様に思える。けれども実際にそのやり方で試合の主導権を握るのに成功していた。

 

ここから前半終了までは、フロンターレが押し込み、京都が跳ね返したボールを回収して再度攻撃を開始というループ。パターンに入っていたが、なんとか京都が凌ぐ展開が続く。ここでさらに京都を悩ませたのが32分の場面。フロンターレがスローインからGKまでボールを戻した時に、京都はプレッシングを仕掛ける。だが逆にロングボールで裏返され、川﨑が前に出ることによって薄くなった中盤でこぼれ球を拾われ、ゴールネットを揺らされてしまう。ただオフサイドの判定により救われる形となった京都は、ハイプレスのリスクを分かりやすい形で示される事になった。

展開を変えるのに失敗した京都はひたすら我慢。なんとか前半を0-0で終わらせる。キックオフ直後を除き、フロンターレにゲームをコントロールされる展開が続くなか、不用意に前に出ず、粘り強く守備を出来ていたのは良かったのではないか。フロンターレの攻撃のキーマンである家長にそれほど怖さを感じなかったのも確かだが。

 

 

ハーフタイムで京都は平戸OUT、福岡IN、システムは変わらず。京都の怪しいキックオフから後半は開始。フロンターレの守備の方針はそれほど変わらず。京都CBに対してはパスコースを切る守備でロングボールを蹴らせる。ある程度ルーズにしても問題が起きないという計算であるし、ボールを奪いに掛かっても結局はロングボールを蹴ってくるので、余計な消耗を減らす意味もあるだろうか。一方で京都の守備には少し変化が見られた、前半困っていてシミッチに対しては川﨑が前にでてマークに付く。真似をした訳では無いのだろうが、フロンターレと同じ対処方法となった。前半同様、早い時間では京都のプレスでボールロストを誘発し、ゴール前に迫ることができる。なんとかこの時間帯で得点に結び付けられれば良いのだが。

 フロンターレは前半以上に落ち着くのが早い。51分には高井の持ち上がりから対角へのロングボールを通しチャンスを作る。52分、それでも川﨑がこぼれ球をつなぎ、ロングカウンターへと持っていく。この試合、川﨑の前に向かう意志は素晴らしい。

56分、京都は山崎に代えてパトリック。前線での起点と運動量を維持したい交代となる。フロンターレのポゼッション、それに対抗してロングカウンターを繰り出す京都という図式で試合は流れていく。ハイプレスは上手く行かないが、それでもロングカウンターがあるぞという意志をチーム全体で見せていく。66分、フロンターレは瀬古、遠野をOUT。大島とマルシーニョをIN。より攻撃性能の高い選手を入れ、勝ちにくる。それに対応するように69分、京都は豊川と松田がOUT。イヨハとパウリーニョをIN。こちらはシステムも523に変更する。何か問題があったと言うよりは、ロングカウンターでの可能性を追った采配と考える。

 72分京都のCKからネットを揺らすが、こちらもVAR介入によるノーゴール判定。奇しくも上福元が飛び出した事でオフサイドとなった訳で。勢いが付いてしまった上福元の飛び出し失敗は、似たような場面を見てきただけに、狙い目だったのかもしれない。フロンターレは74分にも選手交代。家長、登里がOUT。大南と山田がIN。大南はCBに入り、車屋が左SBに移動する。システムは変更なし。80分には最後の切り札とも言える小林悠が登場する。京都のシステム変更によって、かみ合わせは541(523)対4123となる。この変更により、京都は持ち直すきっかけを作る。後ろの人数を増やすことによって、インターセプトを狙った積極的に前にでる守備が可能となり、再びロングカウンターの機会を得る。ただしここでもフロンターレの守備は崩せず。守備への切り替えが終始速い事もあるが、後方に最低限の人数を残しているのも決定的なカウンターを防ぐのに機能していた。勝ち点3が取りたいからといって、二人残して全員が前にでるチームでは無いのだ。

最後の最後、試合の決着を付けたのは小林悠。限られた時間で難しいヘディングシュートを決めるのが代表に選ばれた選手というものだろうか。シュートに到るまで、フロンターレらしいとは言えないこぼれ球を競り勝ってのものだったのが、この試合を象徴しているかのようだった。

 

ひとりごと

フロンターレは強かった。点数差以上に強さを感じたのは、試合をコントロールされている感覚があったからだろう。パスワークの上手さはもちろんそうなんだけども、相手への対応力、それ以上に守備が強く意識されていたのは印象的であった。対京都と言うことで、エアバトル、こぼれ球争いと言った、いわゆる泥臭い場面で負けずにやり合おうという姿勢は、強さを取り戻すための意志とプライドを感じさせるものだった。王者になるにはこれが必要なんだ。

京都は悔しい敗戦。悔しいと感じられるくらいに対抗できたと言って良いのではないか。上手くいかなくなると、暴走気味に走り回ってしまう悪い癖も見えず、なんとか勝ち筋を見つけようとしていた。(おそらく)この試合に照準をあわせていたので、選手達の集中力も高く、特にキャプテン川﨑の攻守に渡っての働きは抜群であった。それだけに何が足りなかったのかをきちんと精査し、今後の課題として置くべきなのだろう。チームのスタイルは違えと、幸いにもシステムが全く同じゆえ、プレッシング、ボールポゼッション、崩しの作法、さらにフロンターレがこの試合で何を大事にしていたのかは、とっても良いお手本になるのでは無いだろうか。